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「ピンク空」6

   冷たいシャワーで身体を冷やして、部屋に戻ってくると、もう部屋の中は完全に暗くなっていた。電気は付けずに麦茶をコップに入れて持ったまま、ベランダに出てみると、遠くに薄く紫色の空が見えて、真上には、星がいくつか輝いていた。  麦茶を一口飲んで、そのままぼうっと空を見上げていると、部屋の中でスマホが音を立てた。  部屋に戻って見ると、ディスプレイには、啓介の名前。 「――――……」  ふと時計に目を走らせる。  夕飯食べに行ってる頃じゃないのかな?  そう思いながら、通話ボタンを押して、耳に当てる。 「もしもし?」 『あ、雅己? 今平気か?』  いつも通りの啓介の声に、ふ、と笑んでしまう。 「ん。シャワー浴びたトコ。……どしたんだよ?」 『あー……じゃあ見とらんかな……』 「……何を?」  聞きながら、何となくまたベランダに出て、手すりに寄りかかりながら、空を見上げた。 『今さっきな……空がめっちゃピンクやったんや』 「――――……」  何だか、言葉を失ってしまう。 『ほんま、めっちゃ綺麗やったんやで? いつもの夕焼けより、ほんっまに完全に、ピンク色した空でな』  途端。オレはプッと笑い出してしまった。 『あ、信じてへんやろ。ほんまにピンクやったんやで? 見とったら納得するで、絶対』  その笑いを、どうやら勘違いしたらしい啓介は、慌てて付け加えている。それが余計におかしくて、オレはひとしきり、クスクス笑ってから。 「見たよ」  そう、言った。 『え?』 「オレも―――……その空、見た」 『あ、ほんま?』  啓介の声がパッと明るくなる。  多分、嬉しそうに、笑ってるんだろうなーと、想像すると、口元が綻んでしまう。 「うん。シャワー浴びる前。見てた」 『そぉか、見てたんか。……空、こっちとそっち、一緒なんやな』 「うん」  楽しげに言う啓介に、オレはまたクスクス笑った。 『何や、嬉しいかも』 「ん?」 『――――……雅己が、オレと同じ時間に……オレと同じモン見てたかと思うと』 「―――……」  そんな言葉には、咄嗟に切り返す言葉も浮かばない。  だってオレも。  啓介に見せたいなーって、思ってたから。一緒に見れてたって、今、なんか、すごく嬉しい。 『皆と移動してたから、電話はかけられなかったんやけど……めっちゃ雅己に見せたい思うてたんや』 「――――……」  その言葉を聞いた瞬間。  胸の中に広がった優しい気持ちに。オレはクスッと笑って、瞳を閉じた。 「……啓介……」 『ん?何?』 「――――……帰ってくんの、待ってるから」  ――――……頭で考えるよりも先に。  気持ちのまま声を出したら、その言葉が自然と漏れた。

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