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「ピンクの空」7

 少しだけの沈黙の後。啓介が、静かな声で話し出した。 『明日そっちついたら、オレ、実家には寄らんで、そのまま帰る事にしたから、夕方には帰るから』 「……うん。帰んなくていいの?」 「ん、大丈夫」  啓介の言葉に、オレはまた少し笑った。 『なぁ、雅己?』 「ん……?」  啓介の声の調子が変わった事に気付いて、次の言葉を待っていると。 『……オレほんまに、雅己が好きやで……』  囁かれた言葉に、オレはゆっくり瞳を閉じた。 「……知ってる」 「――――……まあ、知っとるか」  電話の向こうで啓介がクッと笑う声。 『――――……雅己は?』 「……決まってるだろ」  言いながら瞳を開けて、空を見上げる。  受話器の向こうの啓介は、また小さく笑った。 『そか。決まっとる、か』 「うん」 『……なるべく早よ帰るから、待っとってな?』 「ん。こっちに何時に着くか分かったら連絡して? 駅まで迎えに行く」 『ほんまに?』 「ん。何かうまいもん食って帰ろ?」 『分かった、連絡する』 「うん。―――……そーいや今って何してるとこ?」 『……夕方からこっちの友達らと会うてる」 「友達は?」 『さっきのあの空見たら、めっちゃ雅己の声聞きたくなったんや。店入って、注文してから、外出てきた』 「そっか。……楽しい?」  そう聞くと、啓介はふ、と笑う。 『久しぶりに周りが大阪弁ばっかで、なんや逆に不思議。楽しいけどな』 「そっか。良かったな」 『……女子も居るけど。 心配、する?』 「しないよ」  即答で答えると。 『……ちょっとは妬いたら?』  クスクス笑う啓介。 「でも、少なくとも、今のお前は心配ないって思ってるし」 『……まあ、せやな』  クスクス笑う啓介は。 『今だけやないよ。 ――――……オレ、一時の気の迷いとかで、お前と居られなくなるんは絶対嫌やし。つーか、迷いもないしな……』 「――――……今の啓介を信じられなかったら、もう誰も信じられないって位、信じてるけど?」 『……ん。信じとって』 「うん。――――……気を付けて帰れよ?」 『なあ、やっぱり夜、電話してええ?』 「うん。オレさっきソファで寝ちゃったから、起きてると思うから」 「は? ソファで寝んなて言うたやろ、風邪引くで」  ソファで寝ちゃった、の所で、しまったと思いながらも話し終えたと同時に、そこで咄嗟に突っ込んでくる啓介に、クスクス笑ってしまう。 「ごめん、もうソファで寝ないから。 てか、啓介、早く行ったら? 友達、待ってるんだろ?」 『んー……そやな……』  啓介がそう言ったきり、少し、黙る。

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