168 / 233

「ピンクの空」7

 少しだけの沈黙の後。啓介が、静かな声で話し出した。 『明日そっちついたら、オレ、実家には寄らんで、そのまま帰る事にしたから、夕方には帰るから』 「……うん。帰んなくていいの?」 「ん、大丈夫」  啓介の言葉に、オレはまた少し笑った。 『なぁ、雅己?』 「ん……?」  啓介の声の調子が変わった事に気付いて、次の言葉を待っていると。 『……オレほんまに、雅己が好きやで……』  囁かれた言葉に、オレはゆっくり瞳を閉じた。 「……知ってる」 「――――……まあ、知っとるか」  電話の向こうで啓介がクッと笑う声。 『――――……雅己は?』 「……決まってるだろ」  言いながら瞳を開けて、空を見上げる。  受話器の向こうの啓介は、また小さく笑った。 『そか。決まっとる、か』 「うん」 『……なるべく早よ帰るから、待っとってな?』 「ん。こっちに何時に着くか分かったら連絡して? 駅まで迎えに行く」 『ほんまに?』 「ん。何かうまいもん食って帰ろ?」 『分かった、連絡する』 「うん。―――……そーいや今って何してるとこ?」 『……夕方からこっちの友達らと会うてる」 「友達は?」 『さっきのあの空見たら、めっちゃ雅己の声聞きたくなったんや。店入って、注文してから、外出てきた』 「そっか。……楽しい?」  そう聞くと、啓介はふ、と笑う。 『久しぶりに周りが大阪弁ばっかで、なんや逆に不思議。楽しいけどな』 「そっか。良かったな」 『……女子も居るけど。 心配、する?』 「しないよ」  即答で答えると。 『……ちょっとは妬いたら?』  クスクス笑う啓介。 「でも、少なくとも、今のお前は心配ないって思ってるし」 『……まあ、せやな』  クスクス笑う啓介は。 『今だけやないよ。 ――――……オレ、一時の気の迷いとかで、お前と居られなくなるんは絶対嫌やし。つーか、迷いもないしな……』 「――――……今の啓介を信じられなかったら、もう誰も信じられないって位、信じてるけど?」 『……ん。信じとって』 「うん。――――……気を付けて帰れよ?」 『なあ、やっぱり夜、電話してええ?』 「うん。オレさっきソファで寝ちゃったから、起きてると思うから」 「は? ソファで寝んなて言うたやろ、風邪引くで」  ソファで寝ちゃった、の所で、しまったと思いながらも話し終えたと同時に、そこで咄嗟に突っ込んでくる啓介に、クスクス笑ってしまう。 「ごめん、もうソファで寝ないから。 てか、啓介、早く行ったら? 友達、待ってるんだろ?」 『んー……そやな……』  啓介がそう言ったきり、少し、黙る。

ともだちにシェアしよう!