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「ムズムズ」

 少し待ったけど、啓介は黙ったまま。  珍しい。  啓介が、黙るとか。 「……啓介?」  名前を読んだら、少しして。 『はー……なんや――――……めっちゃ会いたいんやけど』  ため息まじりの言葉。  ――――……それも、なんか。すごく珍しい気がする。 「……ばぁか」  言った自分の顔が、勝手に笑顔になるのに気付きながら、オレは続けた。 「今朝まで一緒だったじゃん。……明日からまた嫌ってくらい一緒だろ?」  言ってから、言い方を間違ったと思ったけど。  気付いた時にはもう、多分遅かった。  なんかちょっと、さっきと違う感じの沈黙。  あ、ごめん、間違った、と言おうとした瞬間。 『……一緒に居んの、嫌なん、雅己』  あ、やっぱり、「嫌ってくらい」のとこに超引っかかってるし。  啓介の声のトーンが一つ下がる。オレは苦笑いとともに、一言。 「……あのさぁ……」 『……何やねん』 「オレ、さっき、待ってるって、言ったじゃん」  こんな事で拗ねるなよなー……。まあ言い方悪かったけど。  そう思いながら言ったオレに。啓介はまた少し黙って。  その後、すぐに、「せやな」と、笑った。 『明日、待っとってな?』 「うん。ていうか……啓介って、ほんとにほんとに、オレと離れたくないんだな」 『何を今更、分かり切ったこと言うてんねん』  あまりにまっすぐな答えが即座に返ってきて、笑ってしまう。  ――――……知ってたけど。  なんかオレのことを、すごく好きっていうのは……。  でも、なんか、昨日から、離れたくない、て何度も言われてる気がするし。  こんな甘えたな感じは、今まで知らなかったから。  ――――………なんか。  ちょっと可愛いんですけど。  そんな自分の気持ちに、なんか、むずむずする。 『知っとるやろ、ずっと居たいって』 「うん、まあ。知ってる」  頷いた途端。啓介の側が一気にやかましくなった。 『なぁにしてんだよ?』 『彼女かぁ?』『早よ来いやー』 『やかましわ、すぐ行くから中で待ってろや』 『んだよ、つめて~な~』 『電話中やし。散れや』  そんなやりとりを電話越しに聞きながら、オレは微笑んでしまう。  啓介みたいなのが、いっぱい居る、なんて思ってしまった。 『堪忍、雅己。久々帰ると、やかましゅーてかなわん……』  とか言いながら、啓介も笑ってる。慣れた、懐かしい人達だもんな。  うるさくても、楽しいに決まってる。 「いーから。早く行きなよ」  本当は。もう少し話していたい気もしたけれど、そう言った。  啓介も渋々といった感じで頷いた。

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