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「不意打ち」
『ん。――――……ほしたら後で電話する』
「ん……じゃな?」
そう言って、切ろうとして少しスマホを離したオレの耳に、啓介が何か言う声が聞こえた気がした。もう一度、持ち直す。
「……何か言った?」
『言うた』
「何?」
『もう夕飯食うた?』
「ううん。まだこれから」
『ちゃんと食えや?』
「うん。大丈夫、オレ一人暮らし、一応少しはしてたし?」
「そうやけど……」
「分かってるって。 お前何回それ言ってんだよ? 大丈夫だってば」
『せやかて一番心配なん、飯なんやもんなぁ。適当に済ませそうやし』
啓介の苦笑いが聞こえる。
『ま、えーか。また明日から、オレ、側に居れるしな』
「そうだな。――――……じゃな、啓介」
『あ、なぁ、雅己!』
「ん? 何?」
なんか、電話、全然切れないんですけど?
そう思って、クスクス笑ってしまうと。
『……めっちゃ好きやで? めっちゃキスしたい』
「――――……!」
……あぁ。もう、不意打ちだなぁ。
好き、とかは、さっきも言ってたし。結構慣れてきたけど……。
キスしたいとか、そういうことしたいとか言葉で言われるのは、ほんと、慣れない。
啓介が側に居ないことに、ちょっと感謝してしまう。
前触れもなく放たれた言葉に、一瞬にして熱が顔に集まった、から。
「……分かってるってば」
照れ隠しに言うと、「あ、分かっとる?」と、啓介が笑う。
「……うん。分かってるってば。昨日から、そう言う感じのこと、何回言ってんの?」
すると、啓介は少しだけ黙って、それから、苦笑いしてる雰囲気。
『せやな。ほんまやな……。ん。じゃな、雅己、またあとでな』
「うん。じゃあな」
ボタンを押して、今度こそ、通話を切った。
黒くなった画面を少しの間見つめて、はあ、と息をつく。
…………オレも好きって。キスしたいとか……言うべきだった、かなあ……??
でもなあ。面と向かって言うのも恥ずかしいけど、電話に向かって一人で言うのもなあ……。まあ。言わなくても、大丈夫かな、うん。
軽く息を吐きながら、スマホを握り締めた。
なんか麺類で済まそうと思ってたのに。
……ちゃんとって言われたなぁ……。
んー……。
とりあえず、ちゃんと夕食を取って。
それから――――……。
啓介から電話が来るまで、のんびり待とうかなー……。
ベッドで、電気消して、啓介と話して。
「おやすみ」って、あいつの声で聞いてから――――……。
それから、眠ろう。
で、今夜が終わったら。
もう、「明日」だし。 明日になれば、啓介が帰ってくる。
「――――……おし♪」
勝手に綻ぶ顔をそのままに。
さっきよりも少し増えた星を、見上げた。
「――――……」
細く光る月と。小さくバラバラと瞬く星と。
耳に残る、啓介の声に。
何だかますます、微笑んでしまう。
髪を揺らして吹く風が――――……とても心地よかった。
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