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「おかえり」

 十八時半には駅に着くから。  十六時過ぎに啓介からそう入ってきた。  分かった、改札出た通路のとこに居る、と返してから、なんかずっとソワソワしてる。  夕飯はどっか寄ればいいよな。  てことは、うちで用意するものはないから。  とりあえず洗濯物が乾いたから取り込んで畳んで。  なんかほんとに、超ソワソワする。  しばらく、買ってきた旅行雑誌をぱらぱらとめくっていたのだけれど。  もう、なんか、ソワソワした気持ちが、抑えられなくなって、外に出てしまった。駅まではゆっくり歩いたとしても、十分位で着いてしまう。  まだ十七時過ぎだし。  あと一時間二十分。  ……何してようかなあ。    とりあえず駅には向かう。  なんかオレ、ちょっと落ち着けよと、自分でも思う。  啓介があんまり寂しそうなのを、たった一晩なのに、とか思ってたくせに。  実際居なくなったら、なんか出かける気もしなくて。  のんびりしたのは、それはそれで良かったんだけど。  ――――……あーなんか。  のんびりするのも、――――……後ろに啓介が居て、  なんかどっか、よっかかったりしながら。のんびりするのが、好きになってるのかも……。  啓介のこと、言えないかも……。  たった一日、居ない位で。  なに、寂しくなってるんだか。  そのまま、あっという間に、駅についてしまった。    ふたつの線の乗り換え駅なので、つなぐ通路が出来ているのだけれど、 その端に立つと、夕焼けがちょうど見える。  いつもは、この駅で降りるだけなので、この通路には来ない。  こんなに綺麗に空が見えるとか、知らなかった。  手すりに肘を乗せて、空を見上げる。  今日も綺麗だなあ……。  昨日、遠い場所に居る啓介と見た、夕焼け空。  今は、キレイなオレンジ色。  あと一時間か。  電車が入ってくると、たくさんの人が、流れてくる。  皆、空なんて見上げず、まっすぐに乗り換えの線に向かって歩いていく。 「――――……」  世の中、こんなにたくさんの人が居るのにな。  今オレが待ってるのは、たった一人。とか。  なんか、くすぐったい。  ぼー、とひたすら、啓介を待ちながら、空を見上げていると。 「雅己」  啓介の声がして。  振り返ったら、一日半ぶりの、笑顔。 「ただいま」  啓介がオレの頭に手を置いて、ぐりぐり撫でてくる。  いつもなら、外で撫でんなと、絶対言う所なのだけど。  なんか嬉しくて、「おかえり」と笑顔になってしまう。 「――――……元気やった? 雅己」  笑顔の啓介が、めちゃくちゃ嬉しい。 「うん」  と頷くと、元気そうやな、良かった良かった、と啓介も笑う。 「結構待ってた?」 「ん。ちょっと早く来ちゃったけど――――……空が綺麗だったから、見てたら時間すぎてた」 「ああ、ほんま。綺麗やな」  啓介も、手すりに触れながら、空を見上げる。 「昨日のピンクも綺麗やったけど――――……今日はオレンジやな」 「うん」 「……今日は一緒に見れて良かったな」  夕陽からオレに視線を移して、クスクス笑う啓介に、オレも、ん、と笑う。

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