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「万華鏡」

 その時、小屋の方から声が聞こえてきた。 「あ、先輩、さすが」  若菜の声がする。……ってことは、「さすが」の相手は、啓介かなと、そっちに目を向ける。  係りの人が落ちた何かを拾ってるから、啓介も何か落としたっぽいなあ。……と思ったら、なんと、万華鏡だった。  おお、啓介ナイス!  啓介が持って帰ってくれれば、オレ、家で遊べるし。  ついさっきまで万華鏡なんて、かけらも自分の中になかったのに、ここで見てから急にすごく欲しいものになってて。だから啓介が落としてくれて、喜んでしまう。  まだ続けて撃ってるので、しばらく皆を眺めていると、沙希が別の小屋の方を指さして言った。 「先輩、なんかあっちの皆、ソフトクリーム食べるって言ってますよ」 「え、今からご飯なのに?」 「なんかおいしそうなのがあるって。数量限定とか」 「えっそうなの? 何が数量限定なんだろ?」 「行ってみます?」 「うん……あ。すぐ行くから、先行ってて」  そう言うと、沙希は頷いて、何軒か先のソフトクリーム屋に歩いて行った。  オレが何で残ったかと言うと。  万華鏡、ほしかったって、啓介に言おうと思ったから。  啓介と若菜は一番奥の方だったので、先に出てきた三人と、何とれたの、とか話していると、奥から、若菜の声が聞こえてきた。 「万華鏡、いいですねー」  その言葉を聞いて、あ、若菜も欲しいのかなーと思ったので。  ……まああげてもしょうがないか。うん。  後で、旅館でちょっと見せてもらえるかなあ~。  なんて思いながら、こっちの三人と話を続けた。  話し終えたところに、若菜と啓介が小屋から出てきた。  啓介と目があって、とれたんだね、と笑うと。 「ん」  と、啓介も笑う。  若菜は、前に居た三人に呼ばれて、何か話しながら先を歩いていく。  なんかオレと啓介って、皆に置いてかれて一番ラストに二人になるというのか、それとも、皆を先に行かせて、二人になってるというのか? とにかく、いつも最後二人になってる気がする。  何だかおかしくなりながら、階段で二人で並ぶと。 「欲しかったんなら、あげる」  ほい、と万華鏡の箱を渡される。 「え」  啓介を見上げる。あ、これ、若菜にはあげなかったのか、と思いながら。  ん、今のセリフは一体? と思っていると。 「あれ? ちゃうの?」 「え??」 「これ狙ってたんやなかった? 勘違いか?」  クスクス笑って、啓介がオレを見る。 「横から見てたから、はっきり分からんかったけど、これ狙っとったんかと思うた」 「うん。……狙ってた」 「あ、やっぱり?」  啓介はクスクス笑った。 「あげるわ」 「いいの?」 「ちゅーか、雅己にやろうと思うて狙うたんよ。ええに決まってるし」 「――――……」  なんか。  ……ずるいな、カッコ良くない? 啓介。  むむむむむ。 「ん? いらんの??」 「いる!……ありがと」  ちょっと悔しく思いながら。でも、嬉しくて言うと、啓介が、ん、と頷いて笑う。  こういうとこ、なんかほんとに好きだな。  とか、思ってしまう。  誰も居なかったら、お礼に、キスしてあげようかなと、思う位。

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