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「張り合う」
準備運動、ドリブルやシュートの基礎練習、久しぶりだから皆でゆっくりやって、水分をとる休憩中。
「とりあえず試合してみるかー?」
先輩の声に、皆が、すごく嬉しそうに返事。
やっぱり試合が楽しいよね、と、オレもうんうん頷いていると、隣にいた啓介が、オレを見る。
「何?」
「雅己はオレと同じチームがええ? 敵の方がええ? どっち?」
「え」
……どっちだろう。
敵だとすごい燃えるけど。味方は味方ですごく嬉しい。
「えー……啓介は?」
「……オレは、どっちも好きやなあ」
「あ、オレも多分同じ。どっちも楽しい」
言うと、啓介はおかしそうにオレを見て笑う。
「明日よそと戦うなら味方やから、今日は敵でやろぉか」
「うん、いーよ」
敵っていうのも、それもやっぱり、わくわくする。
チーム分けはかなり適当で、臨時キャプテンを一人ずつ決めて、オレこっちー、的な感じで別れたので、啓介とは、話していた通り、敵同士になった。
試合が始まる。
一対一とは違って、啓介だけと戦う訳じゃない。
それでも――――……。
「良!!」
啓介のマークを外して、パスを受け取って、三点決められると、すげー嬉しい。でもその後、抜かれて綺麗にシュートされると、めちゃくちゃ悔しい。
なんかオレは、いつでも啓介を見て、啓介を意識して、頑張ってたような気がしてくる。
啓介が綺麗にシュート決めたから、その練習をめちゃくちゃ頑張ったし。
……啓介のパスを一番良いところで受けられるように、考えたし。
一番啓介が攻めやすいところで、ボールを渡そうって、いつも思ってた気がする。
休憩中、水を飲みながら、良がオレを見て笑った。
「雅己先輩って、昔から思ってたんですけど」
「え、何々?? 昔からって?」
「啓介先輩が敵だと、めちゃくちゃ燃えますよね」
良のその言葉に、オレが答えるよりも早く、周りの皆が、どっと笑う。
「……何で皆、そんな笑うの??」
「いや、だって、その通りだなーと思って。なあ?」
「だなー。他校とやるより、必死かもって、感じ」
「そんなこと、ないけど」
むむ、と思いながら言うと。
「あるある」
皆に口々に言われて、むむむ、と口をつぐむ。
他校とやるほうが、負けるかーって思うに決まってるじゃん。
皆、多分ふざけてるんだと思うんだけど。でも、そんな風に言われて、皆がこんな風に笑うほど、オレって、そんなに、皆から見ても、啓介のことばっかり……意識してるように見えてたのか。
「一緒に暮らして、仲良くやってんの? 張り合ってんじゃねえの?」
先輩達がクスクス笑いながら、そう聞いてくる。
「家ン中で、何張り合うんですか?」
試しに聞いてみたら、皆すごく面白そうな顔をして。
「トイレ先に入るー!とかさ」
「一番風呂はオレだーとか?」
「でっかいハンバーグはオレのーとか?」
ふざけて皆が言って、でもって、また皆が笑う。
なんじゃそりゃ! しないわ!
オレは、最初は反論していたんだけど、でも、皆は楽しそう。
……全然違う。
啓介は、オレと張り合うなんてしないから。バスケはちょっと別だけど。
一緒に暮らしてる啓介は……。
なんかめちゃくちゃ優しいし。
いっつも、オレを見て、優しく笑ってる感じ。
張り合うなんて、絶対無い。
……けどまあ、これは言えないから。
ま、いっか、それで。うんうん。
啓介との仲、勘ぐられるよりは、全然ましだな、と思い至ったところで、オレは、反論をやめた。
「休憩おわりー! はい後半でーす」
タイムをとってる女子達の声に、立ち上がる。
「絶対勝つぞー!!」
言ったら、周りが笑いながら、オッケー、と答えた。
なんか向こうのコートで、啓介がこっちを見て、笑ってるし。
別にオレ達の会話、聞こえてる筈もないのに。
なんか、面白そうな顔、してる。
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