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「悔しいけど」

   ボールを持ってドリブルしながら、啓介の前に立つ。  抜くか。パスするか。一瞬で考える。  ……ドリブルで抜ける気がしないんだよな。ムカつく。  さっき一対一やってた時も、なかなか抜けなかったし。  だったら。パス。点を取れたらチームは勝ちになる。  そう、思うんだけど。やっぱり、自分で抜きたい。  フェイントを使って抜こうと思った瞬間。するっ、とボールが奪われた。   あ、と思った瞬間、パスされて、速攻で攻められて失点。  ちくしょー、と思うのだけれど。  今のはなんだか鮮やかにとられすぎて、ちょっとカッコイイなと思ってしまう位。  余計に燃えて、今度は絶対抜くと決めて、啓介を抜けて点を決められた時はめちゃくちゃ嬉しい。  攻めて守って、奪って奪われて。  啓介だけと戦ってた訳ではもちろんないけれど、オレの中でのメインの相手は、啓介。  啓介にこだわってたのは、昔からだなぁ。なんて、バスケすればするほど、思いだしてくる。  ……啓介に告られなければ、今みたいな関係にはならず、大好きな友達のままだったと、思うけど。  大好きでこだわってたのは、昔からだ。  めちゃくちゃ必死で戦った末。  一点差、あと一本とれたら勝ち、のところでタイムアップの笛が鳴った。 「え、もうおわり?」  がーん。  あと一本だったのにー!  めちゃくちゃショックで立ち尽くしていると、啓介が笑いながら近寄ってきて、お疲れ、と肩に触れた。 「もー、すげー悔しいー」  思い切り面と向かってそう言うと、ぷ、と啓介が笑う。 「はいはい」  ぽんぽん、と肩をたたかれて、なんだか余計悔しい。  周りの皆は笑ってるし。啓介も楽しそうだけど。  オレはめちゃくちゃ悔しい。 「けーすけ、シュート勝負しようよ。スリーポイントの」 「ん? 今?」 「うん。皆もやろー。打ち続けてのサドンデスー」 「今―?」 「オレ、も―疲れたー」  皆、コートの外で飲み物を持って、座り込む。 「何もう皆、じいちゃんか!!」  何なんだよもうー!と、ツッコミ入れてると、少しして後ろから、「雅己、やろうや」と声をかけられる。振り返ると、啓介がボールをクルクル回してた。 「うん!」  啓介に駆け寄りかけたところで、「あ」と手で制される。 「なに?」 「その前に水飲んでこいや」 「啓介は?」 「も、飲んだ」 「わかったー」  言われてすぐコートから外れて水分補給をしていると、「ほんとお前ら、元気なー」と笑われる。 「オレも、もう少し休んだら、付き合いますね」  良が言うと、他も何人かそう言う。 「ていうか、良たち、現役じゃん。ちょっとなまってんじゃないの?」 「……雅己先輩たちと比べないでくださいよ。前からスタミナすごすぎだったし」 「え、そう? オレはそんなことないけど。むしろ、けいす――――……」  話してる後ろで、タンッと小気味の良いボールを突く音がして、ふ、と振り返った瞬間。    啓介が、めちゃくちゃ綺麗にシュートを放って、それがゴールに吸い込まれた。皆見てたみたいで、ワッと体育館が沸いた。 「相変わらずめちゃくちゃ綺麗ですね」 「……うん」  良の言葉に頷きながら、水筒を置いてすぐ駆けだした。 「ずるい、啓介! オレもやる!」  言うと、ゴールから落ちてきたボールを捕まえながら、オレを振り返って、おかしそうに笑う。 「ずるいって何やねん」 「だってずるいし!」  あんまり綺麗で、ずるい。  すごく綺麗なシュートを見て、死ぬほど練習したけど、結局追いつけなかった気がするし。むかつくー。 「やろ、雅己」 「絶対負けないー!」 「はいはい」  苦笑いの啓介に、詰め寄ると、ますます笑われる。 「どっちからがええ?」 「オレから!」 「おっけ」  ほら、とボールを渡される。  ボールを受け取った瞬間から、わくわくが倍増。  ああもう。  やっぱ、啓介とバスケすんの。悔しいことも多いけど、すっげー楽しい。

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