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「もうもう」

 結局その後、また負けた。  ……ていうか、あとから参戦してきた皆は、なんだかんだで早々に離脱して、結局オレと啓介の一騎打ちになって。  オレが外して、啓介は決めたので。啓介の勝ち。 「……明日もやるからなー」  もう疲れ果てて、体育館に大の字になって、転がったままそう言うと、見えないけど皆が笑う声が体育館に反響する。 「今日はもうやめとく?」    啓介が言うと、皆が賛成、と言ってるのが聞こえる。 「雅己」  体育館の天井を見ていたオレの視界に、啓介が入ってきた。 「立てるか?」 「んー……立てる」  言いながら、むく、と体を起こした。 「なんか啓介にはずーっと負けっぱなしな気がする」 「そーか?」 「そうだよ。くそー。悔しいなー」  言うと、啓介はクスクス笑って、手を差し出してきた。  その手を取ると、ぐい、と引いて、立ち上がらせてくれる。 「ありがと」  言いながら、少し近づいた時。 「いっつも負けとるから、こういうんはええんやない?」  ん??  オレは、耳元で囁いた啓介を振り仰いで見つめた。 「何? どういう意味?」 「まあまあ。またあとでな」  そう言った啓介の視線の先を追うと、皆がこっちに向かって歩いてきてて、なんとなく啓介を囲んで集合。 「このあとどーする?」 「食事十八時からやし、風呂済ませといた方がええかなーと」  先輩達を見ながらそう言う啓介。そうだな。じゃあ体育館片付けようぜーと先輩達が言うので、皆頷いて、バラバラと散って片付け開始。 「片付けたとこから、モップかけてやー」  啓介の指示してるのをなんとなく聞きながら、ボールを拾って片付けていると。  沙希が寄ってきて、笑った。 「啓介先輩との一騎打ち、久しぶりで楽しかったです」 「はは。楽しい?」 「はい。うちの名物って感じだったじゃないですか」 「え、そう? 名物だった?」 「はい」  クスクス笑いながら、沙希は頷いて、オレの抱えてたボールを受け取って一緒に片付けていく。 「先輩達が卒業しちゃって、ほんと寂しかったですもん」 「はは。それは、ちょっと嬉しいけど」 「なんか静かになっちゃった感が。やっぱり、啓介先輩の関西弁って、盛り上げ要素ありますよねー。でもって、雅己先輩もすぐ乗るから」 「……漫才みたいだったってこと?」  ん?と思いつつ、そう聞いたら、沙希は、えーと、と言った後。 「そうですねっ」  ニコニコ笑顔で可愛く笑って、思い切り頷く。 「そんなことしてたつもりはないんだけど」  苦笑いで答えると、「つもりがないから面白いんですよ」と言って、クスクス笑われてしまう。 「面白がられてたんだ。知らなかった」  そう言うと沙希はまたクスクス笑った。  ……啓介がよく冗談言ったりしてたのは知ってるけど。  オレそれに乗ってたっけ?  ボールを片付け終えて、余ってたモップで床を掃除しながら、高校時代を思い出すけど。そういうのはあんまりよく覚えてない。  多分何も考えずに、ぽんぽん、啓介の言葉に合わせて喋ってたんだろうなあ。  うん。楽しかったことだけは、すごく覚えてる。  何言ってたかは、あんまり覚えてないけど。  覚えてなさすぎて、ちょっと笑ってしまいそうになっていると、啓介が近づいてきた。 「もうええよ、モップ。しまって来いや」 「ん、分かった」 「あ、雅己」 「ん?」  呼ばれて、振り返ると。 「風呂、一緒に行くからな?」 「……??」  オレにしか聞こえないような声で言われて、首を傾げると。 「あんま他の奴の前で真っ裸晒して歩くなや?」 「な……っ」 「分かった?」 「……っっっ……! 馬鹿!!」  叫んで、ダッシュでモップを片付けに行くと、オレの、かなり響いた「馬鹿」の声に、同じくモップを片付けてた皆が「喧嘩したの?」と笑う。 「喧嘩……じゃないけど」  もー。  啓介の馬鹿。なんかそんなの改めて言われると、恥ずかしいっつの!!    お前以外の誰も、オレの裸なんて見ないっつーの!  もうもう。ほんとに。馬鹿。  

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