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「乗り切る」

「まあ家では、ようしゃべっとるよな」  クスクス笑いながら、啓介がオレを見て、そう言うので、うん、と頷いておく。まあ、確かにしゃべってはいる。 「仲良しなのは知ってるけど、一緒に暮らすとは思わなかったな」  要が笑いながらそう言う。 「二人とも、彼女とかできたらどーすんの? 部屋とか普通に連れてくの?」  すごく普通の質問なんだけど。  ……オレだって、誰か男友達同士で暮らし出したら、同じ質問するかもしれない。だから、すごく分かるんだけど、一瞬、言葉に詰まっていると。 「家は無しやな」  啓介が、さらっとそう答えてくれた。 「ふうん。そっか」  要も別にそんなに突っ込んではこないで、その話は終わった。 「オレ、バブルバス行ってくるー。二人も行く?」 「後で行くわ」 「オレももう少し外がいい」  要を見送って、二人になったところで。 「色白いって、やっぱ思うよなあ」 「ん?」 「要はそういうん無いから普通に言うけど。雅己は適度に筋肉ついとるから、なんか余計エロく見えるしな」 「な……っ」  かあああっと、自分が一気に赤くなるのが分かる。 「……あー」 「……?」 「……そーいう反応されると、めっちゃ触りたくなる」 「…………あのさぁ、啓介さぁ」 「ん?」 「……もう。ほんと。まだ一日目だからね? 明後日まで、我慢してよね?」  赤くなったまま、文句を言ってると、啓介は苦笑い。 「一泊にしといたらよかったわ」 「……そういうことじゃないっつーの……」  もー、と怒って、オレがばちゃばちゃ啓介にお湯をすくって掛けていると。 「雅己、がきんちょか~」 「小学生か」  言って笑いながら、先輩達がやってきて、湯につかった。 「オレが悪いんじゃないですもん」 「なに? 啓介、何言ったの?」  皆面白そうに笑いながら啓介に聞くけど、啓介は「大したこと言うてません」とかすっとぼけてる。 「他の泊り客きたら、やんなよー?」 「やらないですよ。啓介しか居ないの分かってましたよー」  むー、とむくれながら言うと、先輩達は笑ってる。 「家でもそんな風にしてンの?」  何で、皆そういう質問してくるんだろ。  そんな風、とか、何?? 「水は掛けてないですけど」 「ちげーわ、そこじゃない」 「……そこじゃないのは分かってますけど」  呆れたように言われて、オレも苦笑い。 「なんか今日、皆に、同じようなこと聞かれてるので」 「あ、そうなの?」 「だよね、啓介?」  啓介は適当に頷いてる感じ。せやなぁ、なんて適当な感じで相槌。 「そういや何で最初は一緒に住まなかったの? 途中からさ。引っ越ししたり面倒じゃんか」  一人の先輩のセリフに、う、と詰まる。  彼女とかできるかもしんないし、一人暮らしを楽しもうと思ったから、啓介とは暮らそうってならなかった。  けど、啓介とこうなって、ずっと啓介と泊まりっこしてて一緒だし、彼女とかも関係なくて、啓介と居たいと思っちゃったし……。  ……って言えるかー! なんて言おう……っ。  と、心の中でうろたえていたら。 「一人暮らししてみたかったけど……どうせ一緒に居るし、家賃もったいないし、一人暮らしでなくてもええんやないかってなって。な?」  啓介がさらさらっと、そう言って、オレに視線を向けた。  なるほど、そういえばいいのか。別に、間違いではないかも! 「うんうん、そう」  勢いよく頷くと、先輩たちに、ほんと仲いいな?と笑われた。  やっぱり、大学生男二人で暮らすって。しかも途中から。  ……あんまり、無いのかもな。そんな気がしてきた。だって、そういえば、オレ、友達にそういう奴ら居ないもんな。オレらも、友達の時は、別々に暮らそうってことになってた訳だし。  とりあえずこの旅行でここらへんの人達をうまく乗り切れたら、今後は楽な気がする。頑張ろう。うんうん。  ……ていうか、ほんとに啓介って、焦らないよなー。  オレ、まだいちいち、ドキドキして、ドギマギして、うろたえるけど……。

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