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「浴衣」

 そーゆーとこ好き。  なんかたまに啓介に言われる気がする。……なんか嬉しい。  でもオレも言ってるかもなぁ。こういうとこ、好き、とか。良く思う気がする。そんなことを思いながら、二人で大浴場を出て歩き出すと、廊下の大きな窓から中庭が見えた。 「すげー綺麗。ライトアップされてるー」 「後で行くか?」 「うん、行こー行こ―」 「食後の散歩、な」 「うん。皆も行くかな」 「聞いてみよ」 「うん」  頷きながら、啓介を見上げる。  ふ、と気づく。 「ん?」 「……なんか浴衣ってあんま着ない、よな」 「せやな」 「……なんかいつもと違って、見えるかも」 「ふぅん?」  啓介は面白そうにオレを見て、クスッと笑った後。 「惚れなおす、とか? そんな感じ?」 「……べ。別に。そういうんじゃ、ないけど」 「ないけど? なんや?」  ニヤニヤ笑う啓介に、むむ、と口を閉じてから。 「ちょっとなんか……大人っぽく見えるかも、て話」 「ふぅん……」 「Tシャツとか着てるよりっていう……そんだけだから」 「ふーん……?」  ああ、なんか顔が、熱くなっていく。  なんかオレ、またハズイこと、言ってるのでは。 「……大人っぽく見えて、好きなん?」 「…………っっ」  ああもう、やっぱりそっちにつながってるのバレバレだよな。  くー。言うんじゃなかった。  恥ずかしさを隠したくて、ちょっと膨らんでそっぽを向いていると、啓介がクスクス笑いながら、オレの腕を掴んだ。  優しいそれだったけど、自然と、啓介を振り仰いでしまう。  ……あーなんか……。  オレ、いつの間に、こんなに啓介のこと、好きになってるんだろう。  浴衣、着てるくらいで。ちょっといつもと違う位で。  なんか。  ドキドキ、して。  なんだこれ。乙女か、オレ。 「あー。あかん」  そうつぶやいた啓介に、ぱ、と手を離される。  ん?  今度は不思議に思って、振り仰ぐと。 「……お前のこと、からかってる余裕はないんかも」 「??」 「……めーちゃ、可愛く見える」 「――――……」 「……首筋とか、なんや、色っぽいし」 「…………っ」  啓介が、はー、とため息をつきながら、口元を片手で覆って、ちょっと視線をあらぬ方向に向ける。  なんかものすごく、恥ずかしいことを言い合っているのだけど。 「……啓介、もしかして、照れてる?」    自分はめちゃくちゃ照れてたのを棚上げして、聞いてみる。 「照れてるっちゅうか……あんま見てると、収まんなくなりそうでヤバい」  そんなこと言われると、なんか、めちゃくちゃいろんなことが、頭によぎってしまう。  自分のそれを抑えるために「……けーすけのすけべ」とからかってみたら。 「はー? ちゅーか、もとはと言えば、お前が顔赤くして見上げてきたせいやろが」 「そ、そ、そんなことしてないもんね」  ……したかもだけど。 「したわ。……キスしてほしいなーとか思うた?」  ちょっとうろたえたら、あっという間にまた形勢逆転。 「し、してないし」  何で分かったんだ。  思った。抱き付いて、抱き締められたら、なんかいつもより、肌が触れそう、とか。裸で抱き合うのとかとはちょっと違うかも。とか。なんか色々ぱーーっとよぎって、恥ずかしくなったっていうのはあるけど。 「はー。……後でどっかで二人んなれるとえーけど」 「なれないだろ」 「なれそうなとこ探そ」 「無理だろ。ていうか、そういうの我慢するって言ったじゃんー」 「せやけど……浴衣って、ヤバない?」 「……ちょっと分かるけど」 「分かるんやな」  ぷ、と啓介が笑う。むーー!乗せられたー!と思った時。廊下の奥から、皆が歩いてきた。 「居た居たー! 食事行くぞー」 「何してんだよ、風呂長すぎだろー」  そんな事言いながら近寄ってきた皆に、「ごめん、オレ寝てた」と言うと、皆が呆れたように笑う。  皆に混ざって歩きながら、視線を感じて啓介を見ると。  何人か越しに、べ、と舌を出されて、にや、と笑われる。  あっかんべーで返して。なんか楽しくて。  はは、と笑った。

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