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「ハードル高い」

「どうだろね。オレ達、いつか、喧嘩するかな」 「どうやろな」 「……喧嘩っていう喧嘩、したことあったっけ?」 「んー。お前が、わーって何か言ったり、少しむっとしてたりはある気ぃするけど」 「それは別に喧嘩じゃないよね? なんかこうもっとさ。もう本気で絶交、みたいな」  思い出そうとしてみるけど。  高校一年から四年目。  こんなにずっと居てもあんまり、そういうのは思い当たらないような。 「まあ今までは友達だったからなー。これから、付き合ってくなら、あるのかもよ?」 「せやなあ……どうやろな?」  しばらく、何でなら喧嘩するかなと考えてみたら、はっと思いついた。 「啓介が浮気したら、喧嘩するかも」 「とんでもないとこ、いきなり言うたな」  啓介が苦笑いでオレを見下ろしてくる。 「それは絶対喧嘩でしょ」 「……雅己が浮気っちゅーのは、ないん?」 「えーオレがー??」  あるかなあ、と考えてみる。 「……オレは無理かもしんない」 「無理、なん?」 「うん。オレが浮気するとしたら、相手は女の子だと思うんだよ。てなるとさ。女の子としたことない訳じゃん、オレ」  そう言うと、啓介は、ん、と頷きながら首を傾げる。 「女の子と初めてっていうハードルとさぁ、啓介を裏切るっていうハードル、結構高いの二個も超えないと、浮気出来ないんだよ。分かる?」 「……分かるけど」  啓介は、ぷ、と笑う。 「それは、結構高いん?」 「えーすげー高いでしょ? 初めてで浮気とか、すんごい、ドキドキな気がするじゃん? そんな二個もドキドキをクリアしてまで、浮気なんてしないと思うんだよね……そこいくとさ、啓介は、女の子とするのに、何の障害もないよなー。したことあるわけだし、オレとする時も、する方だし」 「せやから言うてんやんか、お前がしたいなら、ええよ、て」  啓介のそのセリフに、きっ、と啓介を睨んでしまう。  あー、またとんでもないこと言い出したしー。 「そんな話してないの! ていうか、今の流れでオレに経験させようって、オレの浮気防止のハードルを一個クリアさせることになるけど、いーのか!」 「――――……」  少し後、ぷは、と啓介が笑い出して、くっくっと肩をゆすってる。 「良くなかったわ。なかったことにして」 「だよな!」  もう、と怒ってると、啓介の手が、オレの頭を撫でた。 「ちゅーか、こんな可愛えから、男と浮気するかも? お前を好きな男、現れたら困る」 「――――……えっ?!」 「ん?」  超びっくりして、大きな声が出てしまった。 「なになになに、今の」 「ん?」 「オレが、啓介以外の男と、浮気して、抱かれるとか言ってんの??」 「そうなったら嫌やなーって。でも可愛ぇから、あるかも」 「ないないないないない」  ぶるぶる、首を振る。 「言っとくけど、無理。啓介以外の男に触りたいって思えない。男は、啓介だけでいい」 「――――……」  啓介は、なんだか面白そうにオレを見つめる。 「あ、でも……これも違うか」 「ん?」 「オレ、男も女も、全部の人の中で、啓介だけでいいよ」 「――――……」  うん。だって、なんか。誰にも触りたいとかキスしたいとか、思わないし。  ――――……啓介を裏切ってまで。とか。絶対無い。  そんな風に思って、うんうん頷きながら言ったら。  啓介の手が、オレの首にかかって、引き寄せられて。  肩を組んだみたいなかっこで、キス、された。  どうせ真っ暗な河原だし、誰も居ない。  遠くから見えたとして……肩を組んでるみたいには見えるだろうけど。まあいいや。  ……ていうか。ほんとこいつって。  キス魔だなー。  結局全然我慢してないような。  ちょっと可笑しくなる。

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