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「いますぐ」

  「雅己が浮気する気がない、いうんはなんとなく分かった」 「うん」  キスが離れて、くしゃくしゃと髪を撫でられる。  オレはクスクス笑いながら。 「分かってくれてよかったよかった」  二人で並んで、また河原をゆっくり歩きだす。 「せやけど、そういうハードルが高い低いで言うたら、オレのが高いと思うんやけどな?」 「えー。何でー?」  啓介は別に初めてでもないし、オレよりはハードル低そうだけど。と思いながらも、何も言わずに啓介を見つめ返すと。  啓介は、ぷに、とオレの頬を潰して、手を離した。 「お前を裏切って、オレが浮気した場合で、最大にやばいンは、まっすぐ向かい合っていられなくなることやと思うんよ」 「――――……」  啓介の言葉にちょっとびっくりして、オレが動けなくなってると。   「意味分からん?」  と啓介が笑う。  意味が分からないんじゃなくて。  ちょっと。なんか感動しそうで黙ってるだけなんだけど。 「お前騙して嘘ついて、お前のその目、まっすぐ見れなくなるなんて、 絶対嫌やから。せえへんよ」  うわー。……なんか啓介って。  …………ほんと好きかも。 「お前とすんのがいっちゃん可愛ぇと思うてるし。なんでわざわざ他の奴とするんか意味もわからんし。雅己みたいに全部可愛ぇ奴、オレにとっては他には居る訳ないと思うから」 「――――……」 「知り合うてから、ずっと、何してても可愛ぇと思うてるし。この先も、そう思わなくなることはないと思う。大事やなーていうんが、重なってくだけや。そんな奴、中々居らんと思うんよなぁ」  ……なんだかなもう。  啓介の方が、よっぽど直球っていうか、ど真ん中っていうか。恥ずかしいぞ。と思うのだけど。 「……けーすけ」  とことこ近づいて、ちゅ、と口づけた。 「……もうオレ……今抱いてほしいかも」 「は?」 「……て思うくらい、好きだったかも。今」 「残念やけど……ここではちょお無理やな」  クスクス笑って言う啓介に、「……は? ちげーし!! 言っただけだし! ここでなんて言ってねーし!!」なんかすごく、恥ずかしくなって、叫ぶと。 「分かっとるよ」  啓介も笑って、オレの頭をポンポンとたたく。 「……にしても、珍しいこと言うたな、雅己」  クスクス笑う啓介に。 「だってなんか、オレをまっすぐ見れなくなるから嫌、なんて。そんなこと言われるとは思わなかったし」 「せやかて、いっつもお前、オレをまっすぐ見るやろ。会うた時からせやった」 「……そう??」 「まっすぐ見てくんのほんま好きやから。嘘ついたら、そらすことになるやろ、絶対」 「そうかもね……」 「まあ、さ」 「ん?」 「んなこと言うてても、浮気する奴は居るんかも、しれへんけど」 「そうだねぇ……誓ったら守られるなら、誰だって結婚式で神様の前で誓うもんねぇ」  二人で、苦笑いで見つめ合う。 「でもなんか。オレは平気だと思う」 「オレも平気やと思う」 「根拠ないじゃんー」 「んなこと言うたら雅己もやろ?」  クスクス笑い合って、見つめ合う。   「オレは、ずっとこんな風に居たいから、っていうのが根拠かな……」  んー、と考えながら言ってたら。  また、ちゅ、とキスされる。 「それも一緒やなー」  ふ、と笑って、啓介がオレの手を引いて歩き出す。 「暗いとこだけこーして歩いて帰ろ」 「暗いとこだけな?」  クスクス笑いながら、啓介の隣に並んだ。 (2023/11/6)

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