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「大事」

 だんだん宿に近づくにつれ明るくなってきたので、もう手はとっくに離しているけど、距離はすごく近いまま。のんびり色々話しながら、宿にたどり着いた。 「今日疲れたね」 「せやな、結構もりだくさんやったかもな」 「うんうん、そう思う。朝も遠かったし散歩してー、バーベキューしてー、オレらはバスケしてー、でその後またバスケしてー、でご飯で、また散歩してるもんね」 「暑かったしなー」 「うんうん。バスケも久しぶりだったし。疲れた」 「ほな、もう寝るか?」 「うん、とりあえず、お布団入ってゆっくりしよっかなあ~」  旅館に入り、皆の居る部屋のドアを開ける。 「ただいまー」 「おー、ちょうどいいところに帰ってきたな」  布団に皆転がってるかなーなんて思ったら、結構な人数が立ち上がってて、そんな風に言われる。 「え? 何がちょうどいいの? どこ行くの?」 「カラオケ空いてて、借りてきた。行く?」 「え、マジで?」  わーい、と笑顔で、くる、と啓介を振り返ると、啓介は苦笑い。 「眠いんは?」 「ん、目、覚めた」 「なんやそれ」  ぷ、と笑われて、えへへ、と笑い返す。 「行くでしょ?」 「ああ。行く行く」  啓介が笑いながらそう言ってくれる。 「皆行くの?」 「寝てる奴は置いてく」 「ああ、確かに爆睡してる……」  何人かはもうぐーぐー寝てた。  クスクス笑いながら、電気をひとつ落として、そのまままた部屋を出る。  廊下を皆で進みながら。隣の啓介にちら、と見下ろされる。 「お前、もう布団転がる言わんかった?」 「カラオケ、好きだし。啓介もでしょ?」 「今はどっちでも良かったな」 「オレ歌いたいし。お前の歌も聞きたい」 「はいはい」  啓介はクスクス笑って、頷く。  カラオケルームは、二十人くらいは入れるパーティールームみたいな部屋だった。若菜も来てたから啓介の隣に来るかなーと思ったけど。今回はなんとなく、歩いてたまんま、皆が入った順に座ってったから、オレが、啓介の隣。  啓介の歌、好きだから。隣で聞けるのは嬉しいかも。  オレは密かに、ご機嫌だったりして。  飲み物を頼んでから、皆好きに曲を入れていく。タッチパネルが回ってきて、オレは隣の啓介を見つめた。 「啓介、何歌う?」 「んー……? なんでもええな。好きなの入れて」 「あ、じゃあこれ歌って、すっげーうまかった気がする」 「ハードルあげんなや」 「確かうまかった! これでいい?」 「もう、ええよ。好きにしいや」  苦笑いだけど、頷いてくれるので、タッチパネルで曲を予約。  オレはあれにしよ~と思って、曲を探そうと思っていたら。 「そしたら雅己はあれがええ。貸して」 「え。あ。うん」  ま、なんでもいっか。そう思って、啓介にタッチパネルを渡した。  少しして、ぴぴぴ、と音がして、啓介が入れた曲が画面の上に表示される。  ――――……あ。 「これでええ?」 「……ん。ていうか。入れようとしてた」 「え。そうなん?」 「うん。今から探そうとしてた」  言うと、啓介は、ふっと笑う。 「これ歌ってんの、気持ち良さそうで好きやねん」 「オレも。歌いやすくて、好き」  隣に座ってる啓介に、ふ、と笑う。  ……めちゃくちゃ何万曲と曲があるし、オレ達一緒にいっぱいカラオケ来て、色んな曲歌ってんのに。  こういうのがぴったり合うのって。すごい。  ずっと一緒に居るからって言ったらそうだけど。でもやっぱり。  ……こんな相手、啓介しか居ないんじゃないかなあなんて。  すごーく大事な気がしてしまう。  

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