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「高校の時から」
翌朝。
明るい光に目が覚めた。窓にあるのはカーテンではなくて、障子なので、光がそのまんま入ってきてる。
「……まぶし……」
呟くと。ぷに、と頬を摘ままれた。こんなことするのは、一人しか。
目を頑張って開けると、片肘をついて頭を支えた感じでこっちを向いてる啓介と目が合う。
「……はよ」
なんか静かなので、小声で言うと、啓介がふ、と笑う。
「おはよ」
「……なんじ?」
「七時」
「ん……朝ごはん、何時だっけ……」
「八時」
「……そっか」
目をこすりつつ、聞き終えて、そのまま啓介に視線を向けた。
「起きてんの、啓介だけ?」
「ん、多分。まだ時間あるから起こしてない」
「そっか……」
小声で話し終えて、そのまま、じー、と見つめ合う。
……普段だったら、キスされるとこなんだろうけど。
さすがにしてこないな。ってでも、こんな風に、見つめ合ってるのも変だけど。ふ、と笑ってしまうと、啓介もクスッと笑う。
静かな、変な空間。
「今日さー、試合、出来るといいな?」
「せやな」
頷いた啓介が、ふっと笑う。
「何?」
「昨日も言っとったし。……よっぽど楽しみやねんな?」
「うん。楽しみ。……ずーっとさ、バスケ、できたらいいよな」
「せやな」
「たまにでもいいからさ。皆で集まってさ」
「せやなぁ」
ふ、と笑い合って、なんとなく見つめ合う。
バスケもだし。
……啓介とも、ずーっと、こんな感じのままで居られたらいいなぁ。
「なあ、雅己」
「ん?」
「朝風呂、行く?」
「え……うん、行く行く」
むく、と起き上がると、啓介が「早や」と、クスクス笑う。
「気持ち良さそう、温泉。いこいこ!」
「三十分で戻ればええやろ」
「うん」
こそこそ話しながら、寝てる皆を踏まないように、布団の間をすり抜けて、バスタオルだけ持って、大浴場に向かう。
廊下に出て、二人で歩き始める。
まだ旅館全体が、静か。
朝は気温が低いみたいで、涼しいし、何だかすごく、いい気分。
「なんか、すごくいいね、ここ」
「気持ちええな」
「うん。ほんとに。朝の空気、イイ。明日は、散歩いこ?」
「ええな」
そんなことを話しながら階段を下りていく。
何人かは朝のお風呂を楽しんでる人達が居るみたいで、カゴに服が入ってる。
ささっと脱いで、大浴場への扉を開く。
朝日が入って、すごく明るくて、昨日の雰囲気とはだいぶ違う。
「なんか眩しいねー」
「せやな」
振り返って笑いながら言うと、啓介も楽しそうに笑う。
ちゃちゃと体を洗って、湯舟に入ると、ちょうど太陽が見える。眩しくて、その光で、水面がキラキラしてる。
「んー……」
思わず、ぎゅー、と目をつぶって、そんな声を出して。
「どないした?」
啓介の声に、ぱ、と目を開けて。
「超きもちイイ~!」
そう言ったら、啓介は、ははっと笑って。
「せやなー」
と、また言って笑った。
「……啓介、また、せやなーばっかりだよ?」
笑いながら言うと。
「オレもそう思うんやけど。ほんまそう思うってだけやから」
「……まあ、啓介の、せやなーは、嬉しいからいいんだけどさ」
「嬉しいん?」
「うん。嬉しい」
ふふ、と笑ってしまうと。
啓介も、隣で、そーか、と笑う。
「……なんかオレらって、結局、なんだかんだで二人で居るよな」
「せやな……ってなんやもう、口癖みたいんなってきた」
はは、と笑う啓介。
「まあでもな」
「ん?」
「皆が居っても、結局二人んなるのは、高校ん時からやし」
「――――……そっか」
ちょっと考えたけど。
……確かにそうだな、と思って。
なんかどうしても、笑ってしまう。
(2023/11/27)
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