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「めちゃくちゃ奇遇」

「あの」 「え?」  呼ばれた気がして、啓介を呼ぶ前に一度振り返ったら、ボールを渡してくれた男が、何だかよく分からない表情で、オレをすっごく見つめてきた。 「?」  一瞬、知ってる奴? と考えはじめたところで、啓介が隣に走ってきた。 「雅己、どないしたん?」 「あ、啓介。ボール拾ってもらったんだ。あ、それでね、今オレ、啓介、呼びに行こうと思って」  啓介にそう言った瞬間。オレをガン見してた男が、不意に「けいすけ? まさみ……」と呟いた。え?と顔を見つめると。 「……あ! 思い出した! 『雅己』くん?」 「……へ??」  ぽかん、と口を開いて見つめてしまうけど、名前に反応したみたいだし知り合いなのかと思って、一生懸命、誰だったか考える。バスケやってる訳だし、県大会とか練習試合とかで、会ったかも……? いや、でも全然思い出せない。  誰? ごめん、どこかで会った? と聞いたら。  最後の県大会で、オレ達の試合を見てたらしい。で、「啓介」って呼びまくる、超元気なオレがめちゃくちゃ目に映ってて、覚えてたらしい。  そんなの覚えてる奴居る? と首を傾げていたら、一緒に居た他の人達に話し出して、そしたら、そいつらまで、「うそ、あん時の??」とめっちゃ顔を見られた。 「え、オレのことを覚えてるの??」  別にオレ、超注目プレーヤーとかじゃなかったけど??  怪訝な顔をしていたら。 「雅己くんたちのチームが勝ったら、オレらと次、対戦だったからさ、皆で真面目に見てたんだよ。そしたら、なんかすっげー楽しそうで、皆で、勝つかなーってちょっと応援しててさ。啓介!って声がすごくよく聞こえて」 「――――……」 「皆で、啓介ー!て呼びまくってる子がいるチーム、みたいな認識で」 「はーーー??」  オレそんなに啓介のこと呼んでた??   かなり恥ずかしい。 「そしたら僅差で負けちゃって、対戦は叶わなかったんだけどね」 「そうなんだ……奇遇だね」 「ほんと。こんなとこで会えるなんて面白いー」  と、そこで、オレがふ、と啓介を見上げる。啓介もオレを見て、ん、と頷いてから、「そっちの、代表の人って誰ですか?」と聞く。 「代表とかは居ないけど、何か話あるなら、聞くけど?」 「うちも、高校のバスケの仲間で来てて、もしよかったら、試合してもらえへんかなと思うて」 「えっ! うそ、マジで?」  嬉しそうに笑ったそいつの顔に、これは、試合決まったな、とオレは思った。 「なあなあ、高校のバスケの仲間で来てるんだって。試合の申し込み受けたんだけど! いいよな?」  皆に大きな声で確認したそいつは、ふっとオレ達を見た。 「あ、そっち、今の何年が居るの?」 「高三と大学一年がメインで、あとは先輩が数人」 「うちは大学一年がメインだけどいい?」 「もちろん」  そんなやりとりをした後、「じゃあ決まり!」と笑う。 「オレ、|北野 志門《きたの しもん》。よろしく」 「杉森啓介。よろしく」  啓介が言うと、志門は笑いながら「啓介くんと、雅己くん」と言う。 「北条雅己。呼び捨てでいいよ」 「了解。オレも志門で」 「よろしく」  挨拶を終えてから、少し話した。とりあえず荷物を片付けてから、色々散策したり自主練とかをしたいらしい。なので、こっちとの試合は、お昼を食べてから、午後にってことになった。  皆のとこに戻ると、皆もオレ達が話してるのは分かってたみたいで、「試合できそう?」と聞いてきた。  午後から試合、と啓介が言うと、皆、超嬉しそう。 「めっちゃ奇遇なんやけど、向こうの人ら、オレらがもう一個県大会勝ってたら、当たったとこなんやて」 「え。そうなの?」  要が聞いて、啓介が頷く。 「試合見てたらしくて、オレと雅己のこと覚えとった。向こうの人」 「すごい偶然。てことは、一つ強かったチームってことになんのか」 「そういうことやな」  ちょっと沈黙。 「なんかすっげー燃えるな?」  楽しそうに皆が笑う。  なんか、すごく試合盛り上がりそう。  皆が楽しそうに話してるのを見ながらそう思っていたら、隣の啓介が、ぷ、と笑いだした。ん? と振り仰いだら。くっくっ、と笑って、皆に背を向ける。 「何??」  啓介を覗き込んで聞くと、めちゃくちゃ笑いながら。 「啓介って呼んでる元気な子、て。爆笑しそうになったわ」 「っ」 「さっき我慢しとったんやけど、今思い出したら……」 「もー笑うなー、あっ、つか、皆にその話はすんなよなー?」  すげー恥ずかしいな。もう。  オレ、普通にプレーして呼んでただけの筈なのに。  

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