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「強敵」

 その後、卓球をしてから部屋に戻った。  試合は楽しみだけど、午後からなので、予定通り、今日は、川遊びと、魚釣り。川に入れる用意をして、宿を後にする。  昨日歩いてた何にもないとこじゃなくて、釣り場と遊び場が出来てる河原迄歩く。釣れた魚をさばいて焼いて食べさせてくる店もあって、まだ朝なのに結構な人でにぎわっていた。  皆で魚釣りの道具を借りて、川で魚を釣る、のだけど、これが。  なかなかの強敵だった。 「生餌じゃん!!」  エサのカップを持って、ひー、と騒いでいると、啓介が、当たり前やんかと言いながら近づいてきた。 「どんなエサやと思うたん?」 「……いや、なんも考えてなかった。そういえば、子供の頃釣りした時は、父さんが全部つけてくれて、オレ、投げるところからやってたっけー」 「いやいや……頑張れや、男やろ」 「いやいや、頑張れるかー!!」 「オレもちょっと無理」  無理をアピールするオレ派と、全然いけるやろ、いやむしろ、行けや、という啓介派とに分かれた。 「一応やり方教えたるから、どーーーしても無理っちゅう奴は、出来るこっちの皆に、頼むこと」  啓介が呆れたように笑ってそう言った。  で、やり方って言っても……うにょうにょした虫に針を刺す。取れないように。それだけ。 「……教えるって……! そんなの刺すだけじゃん!」  ひー、と文句を言うと、啓介は呆れたようにオレを見た。 「これ以外に何を教える思うたんや?」 「あんまり見ないで刺す方法……!」 「見ないと刺せへんわ」  また呆れたように言って、啓介が笑う。  ギャーギャー騒いでると、「あ、居たーおーい」と、階段から、さっきのチームの人達が現れた。 「志門だ。ちょっと持ってて?」 「え? 誰です?」  オレが生餌を隣にいた涼に押し付けると、刺したくない派の涼は、嫌そうにしながら聞いてくる。 「あとで試合する人たち」 「名前呼んでるんですか」 「うん。聞いてこよ。啓介」 「ん」  釣り竿も置いて、志門たちの方に駆けよる。 「何かあった?」 「すげー騒いでたね」 「え? ああ、オレ?」 「うん」  志門と周りの皆に笑われる。 「雅己って、イメージ、ずと変わんないんだね」 「試合中と今とは全然ちゃう話やと思うけど」  啓介が苦笑いで志門に言った。 「今何してたの? 釣り?」 「そう、釣りして、つった魚、あそこで焼いてもらって食べるの」 「へーすげーそんなのあるんだ」 「志門たちもできるよ、多分。釣れなくても食べさせてくれるらしいし」 「何でそれで叫んでたの? おかげですぐ見つかったけど」 「だって、エサが……! 生餌なんだもん!!」 「……ああ」  ぷっと笑う志門たちをきっと睨む。 「笑ったけど、できんのかよ! 超きもいぞ、うにうにした虫に針……ひえーやだ、絶対無理……」 「多分オレ平気」 「嘘だろ」  思い出して、ひいい、と騒いでいたら、また笑われて、ムムッとしてるオレを尻目に、志門と啓介が話し始める。 「夜さ、バーベキュー、一緒にやんない?」 「一緒にできるん?」 「宿で、そっちも夜、バーベキューだって聞いてさ。一緒に出来るって聞いてきた」 「あぁ、えーよ」 「皆に聞かなくていいの?」 「どーせ試合して、仲良くなってるやろうし。反対する奴おらんやろ。な?」  啓介が笑いながらオレを見つめて、聞いてくるので。 「絶対オッケー! 楽しみだね」  そう言うと、志門がまた笑う。 「ほーんと、あん時のままだね、雅己」 「確かに」  志門の言葉に周りの奴らも頷いてて、オレはちょっと複雑。  だって、あん時って。  オレがけーすけって呼びまくってたという時でしょ。うーん。 「元気なイメージそのまま」  クスクス笑われて、あ、そっちならまあいっか、とちょっと笑顔で、そう?と返す。 「じゃあ、昼過ぎに少し腹ごなししてから、試合なー! で、夜はバーベキューで」  そんな風に志門たちは言いながら、じゃーなーと離れていった。 「うわー、なんか余計楽しみになってきたね」 「せやな」 「……んー。ていうか、まず餌をどうするか考えないと……」 「やってやろか?」 「……それも悔しい」  言ったら、はは、と啓介に笑われる。 「ほしたら、思いきればええだけやて」 「それが出来てたら、オレだって騒いでないんだよー!」  もー、と文句を言いながら、釣り竿の元に戻って歩き始めた。    

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