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「感謝とか」

 その後めっちゃくちゃワーワー騒ぎながら、オレは、ついに自分で生餌を針につけられるようになった。先輩たちに苦笑されて、雅己がうるさいから魚が逃げるとか文句を言われながら。  やっとできた時、多分キモくて涙目だったオレを見て、啓介が、笑いをこらえながら、「頑張ったな」と撫でてくれた。  一回やってしまえば、もうあと覚悟の問題で。  気持ち悪すぎるけど、なんとかできるようになったから、オレとしては、ものすごい達成感。  で、魚釣れた時は、また魚がビタビタしてるのが無理で、それは啓介に取ってもらった。 「取るのはせえへんの?」  と笑われて、それはいい、と拒否。  ……だって。すごいビタビタしてて、なんか怖い……。きっと、捕まりたくなかったんだろうなーーとか考えちゃうと。ごめんよとか思ってしまいながら。 「なんか漁師さんに、感謝する日になったかも……。あと、魚にも。生餌の虫にも」  と、しみじみ言ったら、なんか周りにいた皆と啓介に、吹き出されて、もうなんか、めっちゃくちゃ、笑われた。  えっ。オレ、本気でそう思ったのに何で笑うんだよって怒ってたら、なんか余計笑われるし。  もう皆嫌い、と、オレはまた一人で釣りにもどることにして、竿を持ってると。 「雅己がかわいーから笑ってんだよ」 「そんな意味のわからんフォローはいらねー」  そんなやりとりにまた皆が笑う。  皆をほっといて釣り再開。魚がかかるのを待って、石の上に座っていたら、死ぬほど笑ってた啓介が隣にやってくる。今周りには皆が居ないので、オレは、啓介に向かってだけ、むっとして見せた。 「つーか笑いすぎ」 「ああ。すまんすまん。ほんまかわええなーと思うてるんよ。オレはな」 「――――……」 「雅己はいちいち純粋やから。反応素直やし。……ほんま好きやなーて思う」  周りに人が居ないのをいいことに、なにやら恥ずかしいセリフを言って、オレをごまかそうとしている気しかしないけれど。 「釣るのが色々大変やから、漁師さんに感謝とか言い出したんやろ?」 「そうだけど」 「もーなんやその小学生みたいな発想が……」 「バカにしてるよな、絶対ー」  むかつくー!と怒っていると、啓介は、ふ、と笑った。 「そういうんが、めっちゃ好きって思う。素直なんよ、雅己」 「――――……」 「この年んなると、なかなかそんな素直にそんな恥ずかしいこと言われへんし」 「……っっっもうお前、ほんとやだ。向こう行って。この年って、じじーか、もう!」  オレが怒ってずっとぶつぶつ言っていても、啓介は楽しそうにしてて、クッと笑いながら、オレを見つめる。 「反応おもろいから、からかってまうけど、言うてることは、ほんま。可愛えと思うてるよ」 「……るさい」  言うと、啓介はまた楽しそうにオレを見つめてる。ぷい、と視線を逸らした瞬間。ぴく、と反応する浮き。 「あ」 「もう少し待って」 「……っっ」 「ええよ、上げて」  言う通りにしたら、二匹めゲット。砂利の上で暴れていて、正直怖い。 「早く啓介、つかまえて」 「今向こう行け言うたやん?」 「いーからもう、早く―」 「はいはい」  クスクス笑いながら、地面でビタビタしてる魚を捕まえる啓介。  川で少し魚を洗ってから、バケツに入れてくれるのを見ていたら。 「なんかオレ、漁師もだけど、啓介にも感謝してるかもしれない……啓介居なかったら、釣り出来なかった」  そう言ったらまた吹き出されて、もー、まじめにきけよーとオレは、もうマジで膨らんだ。

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