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「じいちゃん子」

「今まで食べた魚で、一番おいしかった」 「そらよかったわ」  クスクス笑う啓介の視線が、ものすごく優しい。  ……まあいつも優しいけど。 「生餌できたし」 「……ぷっ」 「あー何笑ってんだよ?」 「…………出来てたけどな、顔が……」  クックッと笑ってる啓介をじっとり睨みつつ。  先を歩いてる皆の方に、二人で歩いてる。またちょっと置いて行かれた。 「てか、頑張ったんだからいいじゃん。ていうか、あれを平気で出来る奴がおかしいー」 「慣れやなー」 「オレも次にはきっと慣れてて、あと、釣った魚も持てるようになるかも!」 「……そっちはどうやろなー」  クックックッ。もう腹痛いわ、とか言ってる啓介に、むむむ、となってると。 「めっちゃびびってんやもん」 「……だってなんか、捕まえてごめんーてなっちゃって」 「まあ、分からなくはないんやけど」  ぽふぽふ、と頭を叩かれる。 「まあそん時もオレが居るやろうから、任せとけや」 「……ん」  頷くと、ふ、と笑って、啓介は目を細める。 「――――……」  ふと浮かんだことに、ちょっと、ツキンと胸が痛む。 「……どした?」 「啓介?」 「ん?」 「オレより先に死ぬなよな」 「……はー?? 何やねん、突然」 「オレ、大好きだったじいちゃんがさ。来年も温泉いこうなー、一緒に露店いこうなーて言ってたすぐ後に、病気になってさ。三か月位で死んじゃったの」 「――――……」 「今の啓介の言い方、なんか思い出しちゃった……」  じっと見つめ合ってると、少し先を歩いてた皆が、「二人おそーい」と言ってくる。 「すぐ行くわ」  と答えてから、啓介が、オレを見て、苦笑した。 「オレらまだ若いから。病気とかのリスクは少ない気はするけど……まあ、分からんよな。何があるか」 「うん……そうなんだけど」 「――――……約束しよか」 「ん? 死なないって?」 「それは出来んけど」  くす、と笑う。 「ちゃんと顔みて死ねるなら。できるだけ笑顔で別れよな」 「――――……」 「笑顔、残したいやん? そのあとずっと、その笑顔、思い浮かべて生きたいし」 「……うん」  こく、と頷く。 「多分、雅己とは、死んでからも会えるから」 「……マジで?」 「ん。オレが会いに行く」 「……絶対?」 「生まれ変わるなら、そっちでも会いに行く気満々やから」 「……」 「安心しとき?」  クスクス笑う啓介に、オレは、何だかすごく嬉しくなって、ん、と頷いた。 「そんなのほんとかよーて、思うけど……てもなんか嬉しい。ありがと」 「ん」  ふ、と笑んでから、啓介は、歩きながらオレを見つめる。 「オレ、こないだ法事に行ったやんか」 「あ、うん。大阪帰った時な」 「ん。そこでな。坊さんが言うてたんやけど」 「うん」 「誰にも思い出されなくなったら、そこで本当に「死」なんやて」 「――――……あー……うん。なるほど」 「せやから、たまに思い出してあげて、思い出話とかしてあげて、みたいなこと言うてた。そしたら、心の中でずっと生きる、て」 「……うん」  なるほど。  ……そっか。と思ったら。なんだかじんわり。潤む。 「……そう思うとくのもええなーと思うて聞いてた」 「ぅん」 「――――……?」  オレの声の調子に気づいた啓介が、首を傾げて、オレを見てから、苦笑い。 「泣くなや」 「泣いてないし。ちょっと、うるっとしただけだし」 「泣いてるやん」 「泣いてないし」  はいはい、と啓介。 「……オレが思い出すたび、じいちゃんは生きてんのかーと思うと。ちょっと嬉しい」 「雅己、じいちゃん子やった?」 「うん」 「そか。じゃあ今頃、めっちゃ喜んでるんやない?」 「……うん」  ふ、と笑って言う啓介の言葉に、ん、と頷いて。  オレはなんとなく、空を見上げた。 「空、めーっちゃくちゃ、綺麗」 「せやなー……」  ……啓介には何でも話せるし。何でも、ちゃんと考えてくれるから。  やっぱ、すーっごく、好き。だな。  生まれ変わっても会いに来てくれるのかと。そんなの分かんないけど。  でも……なんか、嬉しい。

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