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「いまさら」

 皆で一度宿に戻り、バスケの準備をしてから、昨日の体育館に向かった。  志門たちのチームももう来ていて、体育館を覗いたら、志門たちが駆け寄ってきた。「よろしくー」と口々に言い合いながら、オレ達も中に荷物を置かせてもらった。 「まだご飯食べだばっかり?」  志門の言葉に、「一時間くらい経ったかな」と啓介を見上げると、「せやな、それ位は経ってる」と返事。それを聞いた志門達は、「じゃあ少しウォーミングアップしたら試合する?」と聞いてきた。  そうすることに決まって、オレ達はウォーミングアップを始めた。  久しぶりの試合にわくわくで、準備運動にも熱が入る。 「啓介!」  いつも通り、で練習していたのだけれど。  オレがそう呼んだら、志門たちが、あ、とこっちを見たのが分かった。  もちろんオレ、他の皆の名前も呼ぶのだけど。  やっぱり圧倒的に、啓介を呼ぶ機会が多いのかも。  ――――何回か呼んで、なんだかクスクス笑ってる感じを見て、んー、とちょっと考える。  ポジション的に啓介と攻撃に行くことも多いし、パスしあうし。  ……オレの声は、通るって言われることは、他でもあるから、余計聞こえやすいのかもしれないけど。  うーん、なんか、あれだよね、  高校生の時にそんなイメージで見られていて、でもって、今も、同じだーとか思われるの、なんかちょっと……嫌、ていうか、オレが呼ぶのは、しょうがないことなんだけど……。  そんなことを頭の片隅で考えながら、練習時間が終了。  試合開始になった。  いつもなら絶対に、啓介! と呼ぶところを、ついつい、要や良とか、違う奴にパスしちゃったりして。パスが甘くなって取られたり、を何回かしてしまった。志門たちのシュートが決まったところで、「五分、水休憩、入れよう」と志門たちが言って、こっちも皆頷いた。  普通の試合ではそんな休憩は無いけど、かなり暑いし、現役離れてる人も多いので、熱中症対策で、水休憩を入れようと決めていたんだけど。 「雅己、ちょっと来いや」  啓介に呼ばれてしまい、水を持って体育館のはじっこに座る。  冷たいタオルを頭に掛けられて、じっと見つめられる。 「練習ん時から思うてたんやけど」 「……」 「オレを呼ぶのおさえとる?」  ……ですよね。気付くよね。 「……ん。ごめん。だって」  そこまで言ったオレに、啓介は、クスクス笑いだした。  あれ。怒ってるんじゃないのか。 「……まあ気持ちは、分かるけど」 「分かってくれる?」 「分かる。せやけど、呼べや」 「――――」 「今更やろ。お前がオレを呼ぶのなんていつもやん。ていうか、オレの調子がめっちゃ狂うし」 「……うん、そうなんだけど」 「負けるで? そんなん気にしてプレーしてたら」  う。  唇を噛んで。  タオルで、顔を拭く。  ――――……ん、と頷いた。 「ん。いつも通りで行く。ごめん――――ほんと、今更だった」  もう気にしない、と啓介を見つめると。啓介は、ふ、と微笑んだ。 「オッケイ。皆んとこ行こ」 「うん」  明るい笑顔でオレを見て、立ち上がった啓介に手を差し出されて、オレはその手を握った。ぐい、と引かれて立ち上がると、二人で並んで、皆のところに向かって歩き出した。  ……ほんと。  すぐばれるなあ。練習ん時からって……ほんとに、すぐじゃんか。  苦笑が浮かんだ。  

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