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「ザ・強引」

 朝から温泉入って、釣りして、バスケして、温泉なんて入ってしまったオレは、どうやらめちゃくちゃ疲れていたみたいで。変なヤキモチに、むー、てしながら、隣で座ってる啓介をぼんやり見てたら、もうあっという間に眠ってしまっていたらしい。 「……雅己?」  頬に触れられて、啓介の声。  ん、と薄く目を開けると、部屋は暗い。 「――――……?」  啓介はオレを見下ろしていて、「起きた?」と微笑む。 「……あれ?」  何度か瞬き。あれれ誰も居ない。 「……皆は?」 「先行ってバーベキューの準備しとる」 「え」 「お前めっちゃよう寝てたから、皆、電気消して、出てった。オレは残っとくて言うたから」 「……あーごめん」  むく、と起き上がって、あくびをひとつ。 「気持ち良さそうに寝とったな」  クスクス笑う啓介に、うん、と返す。 「すっごい気持ちよかった。ありがと、寝かせてくれて」 「……ん。まあオレは、役得やし」 「やくとく?」 「寝顔見とった」 「……変な顔してた?」  そう言うと、啓介は、「なんでやねん」と笑う。 「可愛い顔しとったよ」 「またそういうこと言う……あ、そうだ」  ふと思い出して、すぐ近くでクスクス笑ってる啓介を真顔で見つめる。 「……ヤキモチ妬かないって言ったじゃん、ここに来た時」 「ああ。言うたけど」 「けど?」 「それは部活の皆の話な」 「えー……そうなの?」 「志門、雅己のこと、めっちゃ気に入っとるやろ? だから言うとる」  え? と啓介を見つめる。えと。本気? と目で問うと、「オレは本気で言うとるけど?」とため息。 「んー……ちょっと、前々からずっと謎なんだけど」 「何や?」 「啓介はさぁ。オレがそんなにモテると、ほんとに思ってるの? しかも、男のことまで言い出してるし」 「――――」  女の子ならまあ、たまには、告られたり、良い感じになってみたりあったけど……なんか啓介、ほんと、前から言ってることおかしいんだよなぁ。  ……ていうか、それよりも、自分の超モテるのをどうにかしてほしいんだけど。 「あんなぁ、雅己?」 「うん」 「……先輩にも、お前のことめちゃくちゃ可愛がっとる人おったし。お前を可愛えて思う奴は、居るから」 「ん……啓介とか?」  ぷぷ、と笑いながら聞いてみると、啓介は、「オレもそーやし」とまっすぐ肯定してくる。肯定されると、言ったこっちが恥ずかしい。 「……もーとにかくさ。前から思ってたんだけど、オレ、そんなモテないから。心配しないで。ていうか、むしろ、啓介は自分のこと気をつけろよなー」 「は? ――オレが何を??」 「つか、オレよりお前のがモテるじゃん」  言ってるとちょっと嫌になってくる。  何で、オレの方が気にしないといけないんだか。もう。 「啓介は、どんなに可愛くて綺麗な子が、迫ってきても、恋人居るから無理、って絶対言うんだからな」 「――――」 「お酒飲んでて、よっぱらってる子が寄りかかってきたりしたら、そーっと離させるんだからな? ちょっとホテルで休もう、とか、絶対乗っちゃダメだからね?」  むむ、と想像しながら眉を寄せ、啓介に向かって言い終えると、啓介は少しの間オレを見ていたけれど。少し俯き加減で笑うと、そのまま、オレの頭を抱き寄せて、自分の肩に押し付けた。 「オレは絶対無いて」 「――――……」 「雅己より大事にしたいもの、無いから」  その言葉をちょっと心の中で噛みしめた後。  オレは、啓介を見上げた。 「……ん。じゃあずっとそのままでね?」  言うと、啓介は、ん、と頷いて、オレの頬にキスをした。  なんだかとってもいい雰囲気で、じゃあ皆の所に行こうか、と言おうとしたら。   「せやけど、お前は、なんかちょろーと連れてかれそうやから、気ぃつけろや、て言うてんの」 「な……! ちょろーって……! 失礼、啓介」 「せやかてなんやちょろいんやもん。強引なのにはめっちゃ弱いし」 「……てか、ザ・強引って奴に言われたくないー」 「まあそこは否定せえへんけど……」 「しないの?」 「してもええん?」 「……だめ」  と、いい雰囲気はあっという間に元通り。何やらわーわー言いながら部屋を出たオレ達だった。  まあいつも通りだけど。  

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