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「彼女は居ない」

 昨日バーベキューした場所に行くと、もう皆、焼き始めていた。  少しずつ食べ始めたとこだったみたい。 「おはよー」  そう言って近づいていくと、皆が「おはよー」とか「何言ってんの」とか、笑ってくれる。そこに志門たちも居るんだけど、もう、午後いっぱい入り混じってゲームを楽しんだおかげで、なんかとっても仲良い雰囲気。  やっぱりバスケってイイよなー、戦った相手ともすぐ仲良くなれるし。うんうん。なんて思いながら、皆に混ざる。  ふと目に映るのは、啓介が向こうのマネージャーっぽい子に話しかけられてるところ。……話は聞こえないから、世間話かもしれないけど。  何だろうねー、女の子ってさー、背が高くて、顔良くて。しかも関西弁ってかなりポイント高いらしいよね。啓介の関西弁は優しいし。声も良いって女子が言ってたの聞いたことあるし。  女の子って、こう……ぴーんとレーダーみたいなのはってて、反応したら、ぴょこんと飛びつくみたいなね。啓介と居るとそんな光景、よく見るから、ほんと、すごいなあって思ってしまう。  まあ別にね、オレは、啓介みたいに心狭くないから、別に啓介が、よそのチームの女の子と楽しそうにしてようと、別に怒んないですけど。  焼いてくれたお肉を食べてると、志門が隣にやってきた。 「寝てたんだって?」 「あ、うん。爆睡しちゃった」 「すごい走ってたもんな」  志門の言葉に、ん? と首を傾げた。 「皆も走ってたでしょ?」 「雅己が一番疲れそうだった」 「そう?」 「一生懸命って意味な?」  クスクス笑いながら、そう言われる。  確かに、お前に付き合って走ってると死にそう、とか何度か言われた記憶がちらっと脳裏をよぎるので、否定はしないけど。 「まあなんか昔から、スタミナだけはあるんだよね」 「そんなことないだろ」 「ん?」 「スタミナだけってことは無いよ。バスケ、ほんとうまい」 「え。そう?」  わー、嬉しいな。 「褒めてくれたから、肉乗せてあげよう」  言いながら、目の前の網から、ほいほいと志門の皿に乗せると、志門が面白そうに笑いながら、ありがと、と言った。 「スリーポイントとか、ほんと感動した」 「えーでも、あれは啓介に習ってるから。啓介の十八番だよ」 「啓介もうまいけど、雅己は、ジャンプが綺麗な気がする」 「えー?? そうー??」  と聞きながらも、オレは超嬉しくて、笑顔が隠し切れない。  その時。ふっと。 『志門、雅己のこと、めっちゃ気に入っとるやろ?』  そんな言葉がよぎった。  気に入っとる。  啓介って、いったいどういう意味で言ってるんだろう。    思わず、志門の顔をマジマジ見てしまう。   「ん?」  不思議そうにオレを見て、にっこり笑って見せる志門。 「なんでもない」 「何か言いたげだけど?」 「いや……」  なんでもないと言いかけて、あ、と思いついた。ちょうど今周りに誰も居なくて、志門と二人だし。 「志門て、彼女居る?」  居たら、啓介に言っといてやろう。変な心配するなって。 「今は居ない。夏休み前に別れた」 「あ、そうなんだ。振られちゃったの?」 「ほんとに振られてたらどうするつもり?」 「……どうしよう」  は、と固まると、志門はプッと吹き出しながら、「自然消滅っぽいのを別れたとこだから、大丈夫」と言ってくれた。 「そっか。自然消滅って何、会わなくなったの?」 「そう。まあ、大学が別になったから」 「あ、高校の子だったんだ」 「そ」  ほらほら、啓介。志門、彼女居たじゃん。  変な心配してからにもう。やれやれ。あとでいっとこ。と思っていると。「雅己は、彼女は?」と聞かれた。 「彼女は居ないよ」  普通の言葉として言ったのだけど。 「ふうん? ああ。……彼氏はいるとか?」 「――――」  ちょっと間を置いて、えっ、とびっくりして、志門を見てしまう。 「――――その顔って、肯定?」  志門はクスクス笑って、オレをまっすぐ見つめてくる。  

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