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「脳内はパニック」

 えーと、あれかな、ただの冗談かな。  この場合は、そんな訳ないじゃんって言うべき?  何言ってんの? と笑い飛ばすべき?   志門てなんか鋭そうな気がするし、啓介とのこと、勘ぐられてる、とか?  そもそもあれか、高校時代に、啓介を呼びすぎていたことも、もしや今の質問にはかぶさってる? そんなに好きだと、思われてる??  え、どうしよう。  ごまかせない? ごまかせないとして……バレたとして。  志門、皆に大声で言うような奴……かどうかが分からん!  そんな奴じゃない気がするけど。  えええーどうしよ。啓介に何も相談せずにばらすわけにはいかないー!  と、ここまで多分、時間にしたら一瞬だったと思う。  ぱーーと色んな事が頭をめぐっていった。  何か言わないと、と思って口を開きかけた時。 「何、あほな顔しとんの?」  啓介がそんなことを言いながら現れた。 「ほら、起きてから何も飲んでないやろ」 「あ、ありがと」  渡されたペットボトルを受け取って、ぎゅ、と握ると。 「どしたん?」  啓介が少し笑ってオレを見る。すると、志門が笑い出した。 「雅己に彼女居る?て聞いたら、彼女は居ないよって言うから、その言い方だと、彼氏は居るの? て聞いたとこだった」  笑いながらそう言った志門。  多分、深い意味ないんだろうなと思う。こんな風に他の人に説明できちゃうんだから冗談で聞いたんだろうなーと。ほっとしたところで、啓介が、何て言うたん? とオレを見てくる。 「雅己、これから答えようとしてたとこ」  そう言って、志門が笑ってる。  ……ああ、なんかもう大丈夫そう。びっくりした。はー。と心を落ち着けていると、啓介が笑いながら。 「そんな訳ないやろ。こいつ結構女にモテるし」 「だよなー」  啓介の言葉に、志門は笑って頷いている。   啓介のおかげで、もうすっかり、普通の会話になった。 「雅己すぐ答えないから、ほんとに彼氏いるのかと思った」 「んな訳ないやん。あほな質問やから、めちゃびっくりした顔してたやんか」  こそこそ、と啓介に言ってる志門に、即座に応えてる啓介。  ……疑いの余地もないように、だとは思うのだけど。 「でも、雅己って、どっちにもモテるんじゃないの? 可愛いじゃん、顔」 「オレが排除するから」 「おお……啓介、ナイトなのか!」 「せやで?」  啓介はクスクスわらって、まっすぐ志門を見つめてる。こんなにはっきり、うろたえることもなく返してたら、啓介がオレの彼氏なんて、絶対思わないだろうなって、思う。  もうすっかり、冗談になっちゃってるなあ、と思いながら、啓介にもらった、ペットボトルの飲み物を喉に流し込んだ。  助かったんだけど。  なんでかちょっとモヤモヤするオレの気持ち。  啓介が頑張って、助けてくれたのは分かってるので、志門に話しかけられて、オレもちゃんと答える。  啓介と付き合ってるなんてバレたら、部活の皆が大騒ぎになっちゃうだろうから。  もうオレってば。  自分でちゃんと答えられずに、啓介に頼っちゃって、しかも、そんな訳ない、とか、言わせちゃったし。  志門が呼ばれて、行ってくると離れると、啓介がオレを見た。 「彼氏居るとか聞かれたん?」  苦笑いの啓介。 「うん。彼女は居ない、ってオレが言っちゃったから、じゃあ彼氏は、てなったみたいで」 「堪忍な、そんな訳ないやんとか言うて」 「――――え」  オレが啓介を見上げると。 「今あいつにバレるとかはないな、と思うて、ああ言うたんやけど……嫌やった?」 「……ううん。嫌じゃない。ていうか、やなこと言わせて、ごめん」  オレが答えられたら良かったのにって思ってたのに、謝られてしまった。  なので慌てて、オレも謝ると、啓介は首を振って微笑んだ。 「全然。オレとお前が波風立たずに、楽しくいるためやし? いつか話すんはええけど、今やないし。相手もちゃうやろ」 「……うん。ありがと」  そう言うと、啓介は、おう、と笑う。  その笑顔に、気が楽になって、ふ、と気づいたことを聞きながら啓介を見上げた。 「ねね、何で今来たの? 超、ベストタイミング」 「志門と二人きりで楽しそうやから、飲みもん持って邪魔しに来たら、変な顔しとるから」 「……邪魔しにきたのか」 「そやで」  クスクス笑う啓介に、もーお前なんなのー、感謝して損したーと騒いでると、皆が寄ってきて、「また啓介に絡んでんの?」「ほんと啓介のこと好きな?」とか、笑われるし。  そういうんじゃないし―!! むしろこの人が変なヤキモチ妬いてたんだし―! てか、もともと、向こうのマネージャーと仲良そうに話してたのはお前じゃんかーと、言えずにむくれるオレと、絶対分かってはいないだろうけど、面白そうに笑ってる啓介。

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