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「来て良かった」

 途中一瞬だけ冷や冷やしたものの、それ以外はすごく楽しんで、バーベキューが終了に近づいていく感じ。  もう焼くものも無いし、皆お腹いっぱいって言ってるし、あーなんかもう終わっちゃうのか、寂しいなあと思った時、宿の人達が「もう食べ終わりましたか~?」とか言って、やってきた。皆で「ごちそうさまでしたー」と揃う。 「じゃここ片付けちゃいますんで……えーと、こちら、用意していた分です」 「あ、どうも、ありがとうございます」   啓介が何か、おっきな紙袋を受け取っている。 「むこうの広いところでどうぞー」 「あ、これバケツです。そこの水道使ってください」  なんだろー? と皆が見てる。  オレは我慢できなくて、啓介の近くに小走り。 「なになに?」  そう言ったら、バケツの一つを渡された。 「何人かバケツに水入れて、あっちまで持ってって」 「何なの? あっもしかして……」 「せや。花火」  ニヤ、と笑う啓介に、寂しくなってた気持ちが、ぱぁぁぁと明るく輝いたみたいな。 「やったーありがとー!」  わーい、と啓介にぴょん、と抱きついて、一瞬で離れる。 「要―、水入れに行こ―!!」 「水―?? あ、花火?」 「そうだってー!」  わーいと、同じように盛り上がった皆で、バケツを手分けして、花火を持ってる啓介の後ろに、ついていく。 「やったーやったー」  弾みながらそう言ってると、啓介がオレを振り返って、「がきんちょか」とクスクス笑う。でも啓介も楽しそうな顔してるので、まあ良し。  ていうか、今は何を言われても、楽しいから全然オッケイなのだ。  啓介が紙袋から花火を出すと、紙袋を敷いて、その上に花火を並べた。   「もう袋からは出してくれてるんだね」 「そうみたいやな」 「花火袋から出すのめんどいもんねーセロハンテープとかすっごいついててさ。子供ん時、早く花火したいのに取れない―ってなってた記憶がある」 「まあ、花火やからな。袋んなかで動いても危ないやろうし……ちゅーか、子供ん時やなくて、今も雅己はそうなってるやろ」  啓介に、可笑しそうに笑われて、視線を合わせて、ん、と頷く。 「うん。 早くやりたい」  わくわくする。花火、去年の夏以来だもん。  すぐに花火専用のろうそくをいくつかばらけて置いた。  花火の先に火をつけると、ふわ、と炎が燃えて、しゅわ、と音を立てて、光る。音と光。すごく、綺麗。 「啓介、花火ー!」 「ああ。綺麗やな」 「うんうん!」  少し広い方に移動して、花火をじっと見つめる。  皆がやりはじめて、すごい煙と、光。    めっちゃきれー。  手に持った花火をちょっとくるくるまわして、光の残像を追って楽しんでいると。 「雅己」  啓介に呼ばれてそっちを見ると、写真を撮られた。 「は。良い写真」  クスクス笑って言う啓介に、「あとで見せてー」と笑うと、啓介が頷く。 「皆も撮ってくるわ」 「うん。あ、なあ啓介」 「ん?」 「花火ありがとー。なんかバーベキューもう終わりかーって寂しかったから、すっごいテンション上がった」 「――――……」 「あ、終わった」  持ってた花火が終わって、バケツに入れてると、啓介が近づいてきた。 「ん?」 「抱き付いてきたもんな?」  囁かれて、ぱ、と顔を見る。抱き付いたっけ? と考えてから。 「あ、さっき? ああ、だって嬉しくてー」 「……お前今、抱き付いたか考えたやろ」 「あ、バレた」 「お前、ほんま、それ他の奴にすんなや?」 「しないよー……多分」 「多分て……はー。もうオレ、写真撮ってくるわ」  何だかちょっと呆れたように、でも笑う啓介に、オレもクスクス笑いながら。 「あ、オレも皆のこと撮っとくね~」 「頼むわ」 「はーい」  バイバイ、と手を振って、皆の撮影にいった啓介を見送る。  抱き付く……。  うーん。オレ、割と高校ん時の部活、やってた気がする。  さすがに大学ではそんな人に抱き付くようにこと無かったけど。だから多分、久しぶりにあんな風に抱き付いたんじゃないかなあ……よく覚えてないけど。  他の奴にはしないほうがいいみたいだな。うん。    ていうか。  ほんと、啓介ってば、ヤキモチ焼き。  ぜーんぜん、オレには意味ないのにな。なんて思うと、ちょっと可笑しい。  絶対オレ、そういう意味で好きなのも、触るのも、  啓介だけなんだけどな。とか思うと、くすぐったくて、笑っちゃう。 「あ、その花火、超きれー、こっち向いて!!」 「おー」  綺麗な花火と、楽しそうな皆を撮ったり。  オレも花火いっぱいして、撮ってもらったり。  旅行、来て良かったなぁ、としみじみ思った。      

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