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「ドキドキしすぎ」

 手持ち花火が少なくなってきた頃、啓介が、「皆、そっちに行って」と言い出した。言われた通り、啓介と少し離れた所に並ぶ。 「打ち上げとか噴出の、するから。誰か火ぃつけんの手伝って」 「はいっ!」  即、手をあげて、啓介の近くに行くと、ぷ、と笑われる。 「気ぃつけて。火つけて少ししたら、シュワって言って、噴きだすから」 「分かってるー知ってるしー!」 「一度導火線に火つけたら、花火が出なくても、覗き込むなよ?」 「子供じゃないしー!」  もう、と言いながら、着火の道具を受け取る。  皆から離れた所に、噴出の花火を三つ、並べた。 「こっちふたつつけるから、雅己、そこつけて」 「オッケー」  啓介に言われるまま、タイミングを合わせて、花火の導火線に着火。  皆がすこし静かに見守る中、花火に火がついて、火花が散った。  赤や青、白、キラキラした火花が、二メートル位、立ち上って、パチパチと飛び散る。  あたりがぱあっと明るくなる。    火をつけて、少し離れて見ていたけれど、向こう側に並んでる皆の顔が、明るく照らされて、皆、笑顔。楽しそう。  オレは、スマホを取り出して、花火も入れつつ、皆を撮影。    ――――……なんか、めちゃくちゃいい写真。  ふっといきなり花火が燃え尽きると、暗くなって、シン、と一瞬静かになる。 「次行くでー」  啓介が言って、また別の花火を下に置いていく。 「雅己、つけて」 「ん」  また、別の種類の花火。  今度は扇状に広がって、それを見てる、皆の顔が青く光る。  結構長かった噴出花火の勢いがだんだん弱まっていって、また、周囲が静寂に包まれる。皆、余韻を楽しむみたいに、誰もしゃべらない。  綺麗だね、と誰かが言ったけれど、それも、なんだかすごく抑えた声で言ってる。  何度かそれを繰り返す。 「これが最後なー? 結構デカいらしいから、ちょっと下がるから」  さっきよりも皆から離れて、啓介が、下にふたつ、並べた。 「都会じゃなかなかできないやろうから、ちゃんと見とけやー」  クスクス笑いながら言う啓介に、皆、なんだかやたら素直に、「はーい」と返事をしてる。 「雅己。そっち頼む」 「うん」  ……あーなんかこれで終わりなのかー。  ……寂しいなぁ。  あ。そだ。  オレは、最後の火をつけた後。  さっきまでは、なんとなく花火から、離れて、啓介と反対側に散ったのだけれど。火をつけた後、オレは、啓介が下がった方に一緒に下がって、啓介の隣に並んだ。 「座ろ」  オレがそう言うと、啓介は、くす、と笑って、オレと啓介、少し端に、二人で座った。  確かに、今までのより大分、大きく噴き出した。  めちゃくちゃ綺麗。  パチパチ音を立てて、星みたいに光って、キラキラしてる。 「啓介ー」 「ん?」 「すっげー綺麗」 「せやな」 「……楽しかったね。全部」 「――――……せやな」 「なんかありがとねー」  ふ、と笑った啓介。  最後の噴出花火、花火もすごかったけど、煙もめちゃくちゃ凄くて、花火の向こう側に居る皆が全然見えなくなった。 「うわ、煙すご。全然見えないじゃん」  あはは、と笑ったオレは。  不意に、引っ張られて。 「んう」  ちゅ、とキスされて。  えっと固まる。  緩く散った煙が晴れた時には、もう啓介は立ち上がってて、向こうの皆も、煙すごーいとか言ってわーわー騒いでる。 「……オレは、お前がいるだけで、めちゃくちゃ楽しいんやけど」 「――――……」 「そうやって、いっつも楽しそうにしてくれるから、もっと楽しくさせようって、ほんまいっつも思う」 「――――……」  なんか、めちゃくちゃ優しい顔でオレを振り返って、そんな風に言う啓介に。めちゃくちゃドキドキして。  ちょっと悔しいオレだった。     

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