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「またこんど」
「――――……」
あ。ウトウトしちゃってた。
は、と気づくと。まだ喋ってる人たちも居たけど、寝てる人も居て、大分声のトーンは静か。
「あれ、起きたん?」
啓介は起きてたみたいで、頭をあげたオレに気づくと、穏やかな口調でそう言った。
「うん。オレ、どんくらい寝てた?」
「そやな……三十分位かな」
「そっかぁ……啓介はずっと起きてたの?」
ふわ、とあくびをしながらそう聞くと、「なんやあんま眠くなくてな」と笑う。
「元気だねぇ、啓介……」
「なんや、旅で浮かれてんのかもな」
クスクス笑う啓介に、そっか、と笑う。まだ話してる人達も、口調もゆっくりになってる。もうそろそろ、皆寝そうだなあ……と思いながら、天井を見上げて、数秒。
「啓介、ちょっとついてきて」
「ん? ええけど」
皆にちょっと出てきまーすと声を掛けながら、二人で廊下に出た。
「どないした? 飲み物買うなら財布……」
「あ、オレ持ってるから平気。ていうか、飲み物じゃなくて」
啓介の腕に、くい、と腕をかけて、歩き進む。
「中庭、綺麗だったし、最後に見に行こうよ」
「ええよ」
ふ、と啓介が笑ってくれる。
腕は解いたけど、近い距離のまま。だって廊下、誰も居ないし。
「眠かったんやないん?」
笑いながら聞かれて、「ちょっと寝たからすっきりしてる」と答えながら、中庭に出る。
「静か。やっぱ、綺麗だなー」
「せやな」
ライトアップされた中庭はとても綺麗。人も居ないし、静かで、雰囲気がある。
「なあ、啓介」
「ん?」
「座って、座って」
ベンチに腰かけて、隣をポンポン、と叩いた。
ん? とクスクス笑いながら、啓介がオレの横に腰かける。
「どないしたん?」
「あのなー、啓介」
「ん」
いざ言おうと思うと、ちょっと考えて。オレは、少し黙った後、隣の啓介をまっすぐに見つめた。
「旅行、すっげー楽しかった。色々手配してくれて、ありがと」
「ん。ああ」
ふ、と目を細める啓介に、オレは、あれもあれも全部楽しかったと、あったことをかたっぱしから挙げていく。面白そうに聞いてた啓介は、そらよかった、と笑う。
「って感じで全部楽しかったんだけど……一番、今言いたいのは、さっきのことで」
「ん」
「皆にさ……もしオレ達がそうなったらどうする? て聞いてくれたじゃん?」
そう言うと、啓介は、ふ、と苦笑した。
「あれは、もしかしたらあとで、雅己に、焦ったって言われるかなーと思うてたけど」
「……あれは、啓介が、ほんとは違うっていう体で、すごいうまく聞いてくれてたし」
「せやった?」
「うん」
うんうん頷いてから、啓介をもう一度、まっすぐ見つめた。
「オレ、皆で話してた時さ。恋人出来たってなると、結局すぐ、彼女ってなるんだなぁって思ってて……いつか、オレ達のこと、話したら、皆はやっぱり受け入れられないのかなあって、思ってたんだ」
「――――そか」
「……だから、聞いてくれてさ。そしたら、皆、あんな感じだったじゃん?」
「せやな」
クスクス笑う啓介。
「よっぽど皆の中で、オレら、仲よすぎるんやろな」
「うん。そうかもだけど」
「そうなっても、納得するくらいなんやろなって分かったけど」
「うん。そうかも、だけど。……なんかでもさ、あのおかげで、皆は、啓介とオレがそうだって言っても、わりと平気で居てくれる人も多いんだろうなーって思えてさ」
「ん」
「なんかそれ、すごい嬉しかった。多分、普段バスケしたりご飯食べたりしてても、ああいう話ってできなかったと思うから。旅にきて、あんな感じで話せて……ってことでさ。だから、そういう意味でも、旅行、ほんとありがとって、思った」
「――――……」
しばらく、面白そうにオレを見て微笑んでた啓介は、ふは、と笑うと。
オレの頭に触れて、クシャクシャと撫でて、すぐに手を離した。
「ん。計画して、良かった」
啓介が、嬉しそうに笑う。
「まあ、結構なんだかんだ、雅己にも手伝ってもろたけどな?」
「そんな大したことしてないよ、オレ」
「そおか?」
「うん。全然記憶ないくらいだな」
「はは」
二人で笑って見つめ合ってから。
そのまま、綺麗な庭園に視線を向ける。
池の水面は、ライトの光がキラキラ揺らめいてる。
樹々を照らす控えめなライトは、星みたいにも見えて、めちゃくちゃ、綺麗で、幻想的な景色だった。
「ほんと、きれー」
「来てよかった?」
「うん。すっっっごい、思う」
「またこんど、来ような。皆でも――――二人でも」
啓介の言葉に、オレは、うん、と頷いた。
めっちゃ笑顔で。
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