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「平和すぎる?」

 綺麗な庭園の夜景を楽しんでから、啓介と部屋に戻った時にはもう皆、寝てた。静かに奥まで歩いて、オレが先に布団にごろーんと転がると。全員動かないのを確認した啓介が、ちゅ、とオレにキスしてきたりして。こらー!と睨むと、スリルって楽しいな、とか笑う啓介。もー!と静かに怒ったまま、お布団をかぶる。  すると、啓介がすぐ近くに寝転がってきて、目が合うとふ、と笑う。 「おやすみ」  囁かれて、ん、と頷く。自然と微笑んでしまうから、不思議。  翌日。皆で朝風呂入ってのんびりしてから朝食。  バイキングはやっぱり楽しい。  帰る途中で、アスレチックに寄ることになってるから、朝食が終わるとすぐに荷物を片付けて、フロントに向かった。  志門たちが玄関のところまで見送りに来てくれた。  たった一日、過ごしただけなんだけど、旅先で会ったからか、なんだかちょっと特別。 「またバスケしようね」 「おー絶対なー。またなー」  もう連絡先も交換してあるし、同じ県内だし、どこかでバスケしようって、再会を約束して別れた。駐車場のバスに向かいながら。 「会えてよかったよなー。試合もできたし、楽しかった」 「そうだね」  要と話しながら、楽しかった試合や、夕食や花火を思い出す。二泊三日。色んな事した思い出が残ってるから、長くも感じるのだけれど、でも、あっという間だった気もするなあなんて考えていたら要が「なんかさあ」と言いだした。 「二泊三日て、短いよな」 「あっ分かるー! オレもそう思ってたとこ」 「まあ雅己は特に、目いっぱいだったから、余計短く感じてそう」    クスクス笑う要に、「そう?」と聞くと。 「だってなんか石投げも大会でもしてんのかって感じだったし、バスケも、うちらより先に啓介とやってたりしたし、練習も、くそ暑いのに死ぬほど走ってたし。釣りも、なんか虫との格闘がすごすぎて」  言ってる最後の方、ぷーと吹き出した要に、クックッと笑われている。 「そんな笑わなくても……あ、でも忘れてた、石投げるやつ、啓介とリベンジしようと思ってたのに!」  しまったーと悔やんでると、「まだやろうとしてたの」と、要にますます笑われる。  バスのところで運転手さんと話してた啓介の顔が見えた。バスの外側から、荷物入れに大きな荷物を詰め込んでから、バスの入り口の啓介のところに行く。 「啓介、石投げるやつ、もう一回やりたかったのに忘れたー」  そう言うと、啓介は、ああ、と笑いだす。 「また今度しよな?」  クスクス笑いながらオレの背中を、ポンポンと叩く。その様子を要がクスクス笑いながら見てる。 「もう中乗って座っといて」  啓介に言われて、バスのステップに足を掛けながら、ふと、啓介を振り返って、「啓介、隣くる?」と聞くと。 「んー? ああ、アスレチック迄やから、もう奥から座ってってええよ」  すぐつくから、隣じゃなくてもいいってことか。  ……ていうか、まあ、こういう時絶対隣ってこともないんだけど。つい聞いてしまった。こういうのを、まわりで聞かれるから、オレが啓介を大好きってことになるのかもなあ、と思いながら、バスを奥まで進んで、空いてるところに座った。後ろからきた要が、隣に座ってきた。 「要、窓際の方がいい?」 「別にいいよ」  クスクス笑いながら、首を振ってる。腰に回すシートベルトをしめて、ちゃんと背もたれに背をついて座ると、要がオレを見て、ふ、と笑った。 「何?」 「それ聞くのって、雅己が窓際の方がいいと思ってるからだよね?」 「え? あー。うん、そうかも。景色、見えるじゃん?」 「窓際の方が良いってオレがいったらどうしてたの?」 「えー?……場所、かわったかな?」 「窓際の方が好きなのに?」 「……そんな深く考えてなかった。普通に聞いて、要がうんっていったら、チェンジしたと思うけど。何で?」  そう聞くと、要はクスクス笑って、肩を竦めさせた。 「雅己のいいとこだなーと思って」 「……席かわるとこ?」 「違う……」  呆れたように笑われて、クスクス笑う。 「なんか居心地いいんだよねー。雅己のそば」 「え、それ言ったら、オレも、要のそば、居心地いいよ?」 「そう?」 「うん」 「そっか」  二人で、そうだよーなんて言って、あははーと笑ってると。前に座ってた先輩達が、振り返ってきて。 「平和すぎる会話が後ろから聞こえてきた」 「お前たちみたいな性格のが全人類だったら、平和だろうなあ」  なんて言われて、はて? と首を傾げつつ。  何となく要と顔を見合わせて笑った。

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