241 / 244
「濡れたらひっつく」
「バス乗ってると、ねむ……」
はわはわ欠伸が漏れる。「ほんと」と要も言う。
「あ。啓介の隣、若菜だね」
「……ほんとだ」
「――モテるよなぁ。啓介」
のんびりな要の声に、そうだねぇ、と、オレものんびり返す。
まあそれは、いまさらって位分かってることだから、特に何も思うことも無い。昔からだしな……。
まあまあ、そりゃ、啓介がそこにフラフラ行っちゃってたら、オレだって嫌だけどさ。……多分、とりあえず今の啓介は行かないだろうし。アスレチック迄のわずかな時間。別に啓介が、女子と楽しく過ごしてても平気なのだ。
正直、この旅行で、啓介がオレのことしか見てないのは……なんかすごく分かったような気がするような。……ってちょっと恥ずいけど。
「アスレチックで最後かぁ……めいっぱい遊ぼーね」
オレが言うと、要は、「雅己の場合、ほんとにめいっぱいだからな」と笑う。
「明日は予定無いから倒れてられるし」
「はは。全部使い果たして帰るか」
「うん、そーしよそーしよ。なんか自然のアスレチックとか。楽しそうだね」
「なー」
頷きながら、要がスマホを少し弄って、「ここだね」と見せてくる。行先のアスレチックのホームページ。
「すっごい楽しそー。あっこれやりたい!」
「ターザンみたいなやつだ」
「うん。あんまやる機会ないよなー」
「確かに。無いね」
見てたら余計に楽しみになってきて、バスの窓から、晴れた青い空を見上げる。いい天気でほんと良かった。
この旅行が終わったら、海の家でバイト。しかも、なんか空いてるアパートに住ませてもらうとか、楽しみすぎる。夏って、いいなあ。暑いけど。
啓介と、ずーっと、こんな感じで色んなことしながら、楽しく過ごしていけたらいいなあ。
「食べるかー?」
前の席から、お菓子が差し出される。
「わーい、食べます!」
遠足みたい。楽しすぎる。めっちゃ食べてたら、要に、「小学生の頃の雅己も、そんなだったのかなーって、なんか見えた気がする……」と笑われた。
「失礼なっ! ちょっとは変わってるし!」
「ちょっと……」
繰り返して笑う要と周りに、む、とするけど、でも、食べる。
楽しいバスの移動を三十分位、目的地に到着した。
駐車場にバスがとまって、順番に降りる。皆が下りると、啓介が言った。
「着替え、あるなら持ってった方がええかも。水場が結構あって落ちることもあるらしいで」
「落ちねーよ」
「子供じゃないの、落ちんの」
啓介の言葉に、皆が笑いながら答えてる。けどオレはちょっと考えた後「オレ、持ってっとこうかな」と言って、バスの荷台から自分の荷物を引き出して、一式着替えを鞄に詰めた。
「あー……なんか雅己はお前は落ちそうだな」
「ていうか、わざと落ちそうな気がする」
「わざとは落ちないですけど」
笑って答えながら、近づいてきた啓介を見上げる。
「……正直、雅己に向けて言うてた」
くっくっと笑いながら、啓介が言うので、なんでだよっと笑い返す。
「まあシャワーもあるらしいから」
「え、そんなに落ちる可能性があるってこと?」
「結構落ちるってコメントありましたけどね」
えー、と皆ちょっと嫌そう。で、結局、夏服だし、薄くて荷物にもならないから念のためもっていっとくかってことになった。
駐車場から、少し遠くにアスレチックの施設が見える。
青空が綺麗で、緑の木々が風に揺れてて少し涼しい。なんかすっごく、わくわくしてくる。
「着替えは持ったけど、落ちたくないから助けてね?」
「……巻き添えは嫌やな」
くっと笑う啓介に、なんでー? と、くってかかると、啓介は可笑しそうにオレを見つめた。
「助けられそうやったら、助けるかも?」
「助けられそうになかったら?」
「んー、まあ、頑張れや」
むむむ。
「いーもん、濡れたら、ひっついてやるから」
べー、と舌を出してそう言うと。ふうん、と笑う啓介に、くいくいと手招きされる。
「……濡れてひっつくとか、なんやエロいな?」
「~~~~……っっ! 馬鹿啓介!!!」
囁かれた言葉はオレにしか聞こえてない。
突然叫んだオレに、周りは、突然どうしたの?と笑ってるけど。そこは、もう完全にスルーした。
ともだちにシェアしよう!