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「ときめくとか」
「行くわ」
そう言って、啓介は足を踏み出した。
池の中に並ぶ石は、大きさとか高さとか、色々違う。ちゃんと上に乗らないと絶対滑って池ポチャだな。まあ、そんなに深くなさそうだから、浸ってもひざ下って感じだけど、やっぱり、落ちたくないって思うのは絶対だよな。
啓介は、ひょいひょい渡っていく。
危なげないというか、安定感あって、見てるこっちは全然ハラハラしない。
「あれ、意外と簡単なのかな?」
誰かがそんな風に言ってる。
――違うような気がするけど。だって、結構、離れてるとことかもあって、ああいうの絶対落ちると思う……。バランス感覚がいいんだろうなあ、啓介。体幹がしっかりしてるというか。
あっという間に向こう岸。啓介と並行して歩いて行った女子達がスマホとかを返してるのが見える。
それを見てて、簡単そう、と言いながら、皆が進みだす。が。
早い奴は最初の石。行けても真ん中の辺りで池に沈んでる。
「なにやっとんねん、しっかりせーや」
啓介が笑いながら、皆に声を掛けてるけど。
「絶対啓介が簡単そうに行ったせいだと思わない?」
「ですよね」
「だな」
オレと良と要は、顔を見合わせて、やれやれ、とため息。
「あいつのせいなのに、なにやっとんねんじゃないよねえ?」
「確かに」
クスクス笑う二人と顔を見合わせてから、よし、と袖をめくる。
「――次オレ行くー!」
言うと、啓介が「頑張れやーここで待っとるからなー」と笑顔。
「静かにしてろよー声かけないで! 集中したいから!」
もー、と叫び返すと、おかしそうに笑ってるのが見える。
でもそれ以上は声はかけてこないので、とりあえず、よし、と先を見据えて、足を出す。うわー。思ってたより、バランスとるの大変。平らな石じゃないから、飛び移った時、体が揺れる。
一つ一つの石でバランスを取りながら、進むけど、なんかもう落ちるイメージしか浮かばない。皆がそろって落ちてくからー! もー!
――啓介の方のイメージを思い出そう。ひょいひょい渡った啓介を思い浮かべながら、進んでいく。
あとは、ここだけ、頑張れば、行ける! とゴールまであと少しのところ、最後の難関で止まって、ふ、と息をついてると、啓介がゴールのところに立った。
「早よ来い、雅己」
はよこいじゃねーから、もー。
と思いながら、覚悟を決めて飛び移った瞬間。
――うわ! やば。
つるりと滑った瞬間。ゴールのところで待ってた啓介が、あ! と手を伸ばしてきて。まだ少し遠くてつかめないのに、前のめりで――。
……ぽちゃ。
「あー……」
足、つめた……。
うー、と顔を上げて啓介に訴えようとしたら。
目の前の啓介の姿に、え、と固まる。
「てか、何で啓介、落ちてんの」
「――助けようと思うて」
苦笑いマックスの啓介。
オレ達を見てた皆が周りで爆笑してる。
「こんなとこ落ちても大丈夫なのにーー」
苦笑いで言うと、啓介がオレに向けて、手を出してくる。その手を掴んで、二人で、ゴールの板に立った。
「バカだなあ、啓介」
「ほっとけ」
自分でも呆れたように笑って言う啓介。
周りも、呆れてるけど。
――なんだかなあ。
なんか。
オレを助けようとして、一緒に落ちてくれるとか。
……なんかめちゃくちゃ好きなんだけど。
ときめくってこういうこと? と思ってしまう。
……キスしたいなあ。今。
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