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「楽しかったね」

 たくさん水遊びをして、シャワーを浴びて、休憩所でご飯を食べた。  それから、バスに戻って、帰途につくことに。  バスに乗る前のところで、「一番前、座っといて」と、啓介にそう言われて、運転手さんの後ろ、一番前の窓際に座る。  啓介の席には、ペットボトルを置いといて、確保。  全員が乗ったことを確認した啓介は、バスに乗り込むと、前に立って皆の方を向いた。 「お疲れ様でしたー。これで全部終わり。後は、高速のパーキングで降りて、おみやげ買うて帰る。それで大丈夫ですかー? なんかある人居たら、手ぇあげて」  啓介の呼びかけに、誰も手を挙げない。 「ほしたら、それで。運転手さん、お願いします。皆、シートベルトしてや」  皆、口々に、はーい、と言ったところで、啓介がオレの隣に座った。 「お疲れ――部長に戻ったみたいだね」  そう言ったら、啓介が、ふ、と笑って肩を竦める。  運転手さんが、出発します、とアナウンスして、車を走らせ始めた。  外側からアスレチックを見ながら、「楽しかったね」と啓介に言うと「せやな」と笑う。  駐車場を出て、車道を走り出すと、とたんに眠くなってくる。  ふわ、とあくびをしたところで、啓介も同じタイミングであくびをしてて。二人で、顔を見合わせて、くすくす笑う。 「水遊びした後って、なんか眠いよね……」 「プールの後とかも眠いもんな」 「なんでだろうね」  話していたら、ふと、後ろがやたら静かなことに気づいた。  腰のシートベルトはつけたままで、後ろを振り返ると、早くも寝てる人がいっぱい。 「結構寝てる」 「そうやろな」  ふ、と笑い合う。 「――啓介が一番、疲れたよなー?」  くす、と笑ってそう聞くと、啓介はオレをちらっと見やって、首を振る。 「オレより絶対お前のが疲れとると思う」 「そう?」 「何でも全力やもん」 「ちーがーうー。そういう意味じゃなくてさぁ。啓介はとりまとめとかしてたでしょ」 「オレは別に、そういうの、苦にならんから」  むむむ。涼しい顔してそんなこと言って。  隣でクスクス笑ってオレを見ている啓介を見返すと。 「オレは、雅己が楽しそうなの見とると、めっちゃ元気になるから」 「――」 「全力で全部遊んでくれて、おーきにな」  クスクス笑いながら、啓介がオレに囁く。  くすぐったいのと。  ――なんか嬉しいのと。  なんか顔が綻ぶ。 「じゃあオレが一番疲れてるなら……」 「ん?」 「肩かして」  言いながら、啓介の肩に、少しよりかかる。  すぐに、ふ、と笑う気配。 「えーよ」  優しい声がして、逆の手で、頭をポンポンされる。  すぐに、うとうと、してくる。  ――瞼、とろけそう。  くす、と笑う啓介の気配。  めちゃくちゃ、好き。――楽しかったなぁ、と思いながら。  ふ、と体から力が抜けていった。   (2024/11/24)
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