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「ニコイチ」

 食べ物を買う前におみやげを見ることにして、啓介とぶらつく。   「おみやげって、見るの楽しいよな」 「せやな。雅己、何か買うてくん?」 「そうだなぁ……実家のは買ったから、買うなら、オレらの?」  そう聞くと、ん、と頷いて啓介が微笑む。 「ええけど。せやなぁ……食べ物がええん?」 「あ、このバウムクーヘン買ってこ? 食べたい。あと、温泉饅頭……」 「それはええけど」  さっきから食べたいなぁと思っていたお菓子をふたつ手に取ると、クッと啓介が笑う。 「形に残るもんも、ええんやない?」 「残るものかぁ……残るもの……」  唱えながら、辺りを見回す。 「タオル……?」 「タオルはいらんな……」 「飾るもの……はいらない?」 「んーせやな……何がええかな」 「ストラップとか、お揃いにする?」 「なんかええのがあったら、ええかも」 「見てみよ」  壁際の通路に並んでるストラップやキーホルダーのある棚に近づいて、目で追っていく。キャラものとか、可愛いのとか、いろいろあるけど、なんか啓介と持つのには、ピンとこないような……。  と思っていた時に、あるキーホルダーが目に留まった。 「あ、これ」  手を伸ばしたところで、同じように、手を伸ばした啓介と、手が触れた。 「――――」  二人で、顔を見合わせて、ふ、と笑ってしまう。 「これ、可愛いって思った?」 「可愛いていうか……ええ感じかなと思うて」 「寄木細工ってやつだよね? なんか可愛い。鈴、いい音するし」 「ほしたら決まり。鍵にでもつけよか」 「うん。どれがいい?」  色んな模様の寄木細工のキーホルダーの中から、気に入ったのを決めて、一緒に会計を済ませた。外の屋台の方に出ると、要たちが居て、合流する。 「おみやげ買ったの?」  要に聞かれて、そうそう、と頷く。 「帰ったら食べるお菓子と、キーホルダーも買ってきた」 「あぁ、自分の?」 「うん、そう」  要がクスクス笑って「キーホルダーって?」と聞いてくる。 「なんか寄木細工のキーホルダー、可愛くて。鍵につけようって」 「啓介とお揃いな訳?」 「うん。そう」 「ほんと、仲良しな」  要にしみじみ言われて、なんとなく、別の皆と話してる啓介を見てから、「ん、まあ」と要に頷いた。 「お前らって、大学でもずっと一緒なの?」 「いや。違う授業も取ってるから、ずっとではないかな」 「ふーん。でも行き帰りは一緒なんだろ?」 「まあ、大体一緒かな」  頷きながら答えると、要は、ぷ、と笑った。 「なんかさぁ。ニコイチって言葉、雅己、知ってる?」 「ん? ……ああ、ふたつでひとつ、みたいなやつ?」 「そうそれ。――なんかオレの中のニコイチは、雅己と啓介だな」  面白そうに言って笑う要に、そう? と聞き返す。  ニコイチかぁ、とちょっと考えていると、啓介に呼ばれる。 「雅己、何か食べるなら早よ買うた方がええよ」 「あ、うん。買う買う! ちょっと行ってくる」  要に言って軽く手を振ってから、啓介の隣に並んで歩き出す。 「何食べたいん?」 「肉まんとソフトクリーム」 「あっついのと冷たいのと……どっち先?」 「肉まん食べてから、バスでソフトクリーム食べる―」 「オッケ。肉まんは、あっちやな」  ひらひらしてる肉まんの旗に向かって歩き出しながら、オレは啓介を見上げた。 「要がさぁ、オレたちのこと、ニコイチって言ってた」 「ニコイチ?」 「なんか、二つで一つ、みたいなさ」 「ああ……ニコイチがオレらって?」 「うん。要の中のニコイチは、雅己と啓介だってさー」 「ふうん? なんで急にそんなこと言われたん?」 「……えーと……あぁ、キーホルダーおそろいで買ったって言ったからかな」  ああ、と頷いて、啓介がクスクス笑う。 「んで?」 「ん?」 「んで、ニコイチて言われて、どう思うたん?」  見上げたオレを、目を細めて見つめてくる啓介の瞳は。  ……なんか、すごく、優しい。 「え。……まあ、普通に、嬉しいかな」 「嬉しいん?」 「……しっくりくるもん。オレ、啓介とニコイチってやつ」  ふ、と笑ってしまいながら、そう答えると。 「……そおか」  それだけ言って、啓介、なんも言わない。ん? と見上げると、なんだか手を口元にあててる。 「……なに? その手」 「――なんや……嬉しい、かもしれへん」  そんな風に言った啓介に、えっ、と二度見。いや、三度見。 「――――」  オレ、今、ニコイチについてそこまで深く考えていなかったのに。  なんか一気に恥ずかしくなって。  オレも手の甲を口元にあてて、啓介から顔を逸らしてしまう。  かぁ、と。顔、熱い。 (2025/4/20)

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