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序章1-1 ※男女凌辱

 男は思う。  ────生きている人間の数だけ、それぞれの日常がある。  この国の人間は実に平凡で、平和だ。現在の生活がいつまでも続くことを信じて疑わない。  だが、時にはそれが良い。過激なだけではすぐに飽きてしまう。それには、日常と非日常を共存させることが重要なのだ。  今、この瞬間にも、自分たちの足元に何が存在するか。ましてやそこで何が行なわれているかなど、想像もしないだろう。  地下に存在する空間を包むのは、底の見えない深い闇と狂気。  地上の常識など何の価値もない、おぞましく、“ありえない”ことが巻き起こる世界。  完全会員制の地下高級クラブ。それは裏社会で強大な権限を持ち、各界に触手を伸ばす金持ちの娯楽の場である。  クラブの内装は中世ヨーロッパの城を意識したものらしく、天井には無数のクリスタルが使用された美しいシャンデリアがつり下がり、高価な絵画や像なども惜しげもなく飾られていた。  その幻想的で、芸術的で、まるで本当に中世にタイムスリップしてしまったかのような光景は、見る者を圧巻する。  これだけならば、セレブ御用達の社交場と何ら変わりはない。その中で異常を感じさせるのは、全体が深紅に染まった室内に浮かぶ、白い肌だった。 「いやあああああっ!!」  クラブの広間に、まだあどけなさを残す少女の叫び声が響き渡る。  可憐な顔立ちをした全裸の少女が、四肢の部分に革ベルトのついた、人間を張り付けにする為だけに作られたとわかるテーブルに拘束され、その周りには飢えた男達が餌を求める肉食獣のごとく群がっていた。 「見ないでっ、やだ、やだやだやだあぁぁっ! た、助けてっ、誰か助けてえええっ!!」 「おおお……処女だ……本物の処女マンコだ……まだ誰にもチンポを挿入されたことがないんだ……綺麗だなあ……」 「でも、自分で弄ったことはあるんじゃないのかい? 君は好きな男性のことを思い浮かべてイクのかな? うん?」 「ふふ、本当に可愛いねえ。この子、この間の全国オーディションに受かったっていう、アイドルの卵だろう? テレビで見たことがあるよ。心配しなくても、どうしたら大勢の人に愛されるのかを、おじさん達が手取り足取り教えてあげるからねぇ」  会員の男達は少女の悲鳴など全く耳に入っていない様子で、各々好き勝手なことを吐いている。  少女はこれから、周りを取り囲んだ男達に、何ものにも染まっていないその清らかな身体を汚されるのだ。それも徹底的に。死ぬまで逃れられない恐怖と恥辱と共に。  人身売買。レイプ。殺人。薬物摂取。肉体及び精神の破壊。このような行為はクラブでは毎日のように行われていて、それを疑問に思う者も誰一人としていない。  宴と称した、乱交と人身売買を主としたパーティーには、会員の趣味趣向に合わせた様々な人間が参加している。  働けど働けど返せない借金に追い詰められた者。突然拉致され連れて来られた者。たった一夜のイベントの為だけに、長い時間を掛けて洗脳や肉体改造を施された者。  会員を満足させられる身体と時間を提供できるのであれば性別や国籍の隔たりは無いと、男や外国人の姿もあった。  それでも、すぐに殺されるよりはマシだ。今はじっと耐えることしかできないが、諦めずチャンスを伺っていれば、いつか表の世界に帰れる日が来る……そう信じている者は、世間的には心の強い人間だと思われるだろう。  クラブに見初められた被害者たちがそんな淡い希望さえ跡形もなく打ち砕かれ、ここは地獄そのものだという事実を知らしめられるのは、もっと先のことである。 「ふうむ……さすがは儂が見込んだ男じゃ。客の反応もすこぶる良い。この分ならば、クラブも安泰じゃな」  広間を一望できる上層のスタッフ席から宴を眺めていたクラブオーナーの老人は、感嘆の声を上げて隣に立つ男を見やる。  男は無反応な表情を一切変えることなく、目の前で繰り広げられる惨劇を、ガラス玉のような瞳で見下ろしていた。  名前はおろか、国籍や、年齢、個人を特定できる一切の情報がない、謎に満ちたこの男。  それは一年ほど前の出来事だ。オーナーにとって、天啓とも言えるのではないだろうか。どこから見つけて来たのか、オーナーは誰にも相談することなく男をクラブへ呼び寄せたかと思うと、彼にクラブの実質的運営を意味する支配人の地位と、全ての業務の権限を託してしまった。主従も形式上のものであり、彼は既にオーナーを兼任しているも同然だ。故に、オーナーとは態度も同等で、気兼ねない友人のような関係にあった。  当初は誰もが彼を怪しみ、オーナーの暴挙に呆れさえしたが、そんなわだかまりは時の流れと、何より彼の手腕が解していった。  彼の最大の魅力は、先の少女のような一級品、またそれになり得るような人間を見つけ堕とすことで、今ではクラブスタッフからも会員からも絶大な支持と信頼を得ている。  目だけを動かして広間の様子を監視していた支配人の視線は、二人の若い男と男女のペアがいる場所で止まった。 「いっ、嫌ぁあああっ! 嘘、嘘よっ……お願いもうやめてぇっ! 助けてっ、正樹くんっ……助けてぇっ……!!」 「そんな……な、なんてことを……あぁぁ……由美……ご、め……助けてあげられなくて……ごめんな……うぅうっ、あああああっ!!」  避妊具を付けていない男に膣内で射精され、由美は半狂乱になって正樹に助けを求めた。だが、助けられるはずがない。正樹もまた、由美と向かい合うように拘束され、もう一人の男に肛門を犯されていた。  正樹と由美は、数時間前に正樹からのプロポーズを済ませたばかりの恋人同士だった。  二人はこれから正式に互いの将来を誓い合うつもりでいた。結婚し、いずれ子供を授かり、いつまでも愛に満ち溢れた幸せな生活が待っているはずだった。  仲良く手を繋いで帰路についていたところを、道脇に止まっていたワンボックスカーから現れた黒服のクラブスタッフ達に連れ去られ、こうして大勢の人間の前でレイプされるまでは。 「なに休んでんだ、ほら第二ラウンドだっ。次も全部膣内で出してやるからなぁ?」 「あーやべぇ、すっげえ締まるっ。やっぱ処女アナルはたまんねぇなぁ! オラオラ、彼女の前で男にケツ掘られてイッちまえ! ギャハハッ!」  二人を犯す男達が煽れば、会員達の野次もヒートアップする。  心ない言葉は弾丸のように降り注ぎ、理不尽な性的暴力を受け、当初は泣き叫び抵抗していた二人も徐々に覇気が薄れてきた。  愛する人の前で膣内から溢れ出るほどに精液を注がれ、見ず知らずの男の子を孕むかもしれない恐怖に打ち震える由美。排泄器官でしかなかった肛門から前立腺を刺激され、否応無しに反応してしまう自らの身体に混乱する正樹。  悲痛だった声はいつしか艶めかしいものに変わり、恋人との情事のように互いの嬌声が重なる。  やがて、犯されていた二人は動かなくなった。死んではいない。由美は体力の限界に達して気絶し、正樹は彼女を助けられなかった悔しさと、肛門性交で絶頂を極めてしまった罪悪感に耐え切れず、すすり泣いていた。  哀れな二人を犯していた男達は、行為が終わるや否やこれといって言葉も交わさず、そそくさと身なりを整えてその場を離れていく。 「はっはっは! 私は仲睦まじい恋人同士が引き裂かれる瞬間が大好物でねぇ。最高のショーだったよ。いやぁ、愉快愉快」  絶望する正樹にとどめを刺すように浴びせられたのは、会員の一人の下品な笑い声だった。

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