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木村勝編2-1

 脅迫の翌日、放課後を待って、神嶽は勝を学園長室に呼び出した。  勝は何よりも自分が大切な男だ。そして、それほど馬鹿な人間でもない。この状況でどうすることが適切かを真っ先に考えれば、公に訴え出たり、逃げ出す可能性も低いというものだ。無論、神嶽の監視下に置かれた今の勝にそうした行動は許されていない。  しばらくして、遠慮がちに扉が叩かれた。 「学園長先生。……木村です」  実に不満そうな声であった。その声音通り、忌々しさを表情に乗せたまま隠そうともしない勝を部屋に招き入れると、神嶽は真っ先に命令を下す。 「鍵を閉めろ」 「なんで、そんな必要が……」  その問いには答えず、神嶽は無言で勝を見つめた。はいそうですかと嫌味をこぼしつつ鼻を鳴らした勝が渋々従うと、神嶽は勝をデスクに呼びつけ、腰掛けている椅子の前に跪かせる。 (……何……させる気なんだ……?)  勝は説教を待つ子供のように不機嫌な目で神嶽を見上げている。この身勝手な男には、神嶽は手っ取り早く己の立場を理解させることを選んだ。 「勝」 「……気安く呼ぶなよ」 「お前をどう呼ぶかは俺の勝手だ。お前には、俺に奉仕してもらう」 「……奉、仕……?」 「手コキやフェラチオをしろと言った方がわかりやすいか。お前の身体を使って、俺を悦ばせるんだ」 「なっ……!?」  いじめを陰で扇動し、高みの見物をしてきた勝でも、そのような辱めを思い付いたことはない。瞬時に怒りと羞恥に顔を真っ赤にさせた勝は、わなわなと身を震わせながら神嶽を睨む。 「バッカじゃねぇのか! 誰がそんなことっ!」 「そうか。なら早速お前の生徒いじめの証拠が世に出回るだけだな」  神嶽が叫びを遮って言うと、勝はハッとして言葉を詰まらせた。今の勝にとって、己の悪業を公に晒されることは、この異常な命令と同じ天秤にかけるほどに避けたかった。  神嶽は悔しそうに股間を見つめる勝の手をとって引き寄せ、自ら取り出すよう促してやる。 「あ、あんたっ……。ほ、本当に……本気で……」 「当然だ。最後まできちんと俺を射精させることができたら、これで帰してやる。簡単なことだろう」 「うぐっ……く、そぉ……何が、簡単だよ……この変態学園長……っ」  神嶽の物怖じしない態度が、勝に改めて脅迫されている現実を痛感させる。苛々を抑えるように頭を掻き、勝は半ば自棄になって神嶽のベルトに手を掛けていった。  一切の乱れのないスーツから現れたペニスの規格に、勝はうっと小さく唸った。聖職者に不釣り合いとも言えるずっしりと質量のあるグロテスクな逸物は、既に半勃ちである。 (……こ、こいつ、こんなにでかいのかよ……。澄ました顔して、盛ってるだけじゃねぇか……本当に……なんでこんな奴が新しい学園長に……)  脅されていても、嫌なものは嫌なのだ。勝の顔はピクピクと引きつってしまう。勝とて男、これが女相手ならまだ愛撫をしてやる気も出るというものだが、同性に強要されるなど正に悪夢のようだ。目の前の赤黒いペニスを見ているだけで卒倒しそうだった。  恐る恐る顔を寄せてはみるが、そこからどうしたら良いのかという風に目を泳がせる。 「男に奉仕するのは初めてか」 「あ……当たり前だろ……あんたみたいなホモ野郎と一緒にするな……」 「お前なら、女にしてもらったことくらいはあるだろう。要領はわかるな」 「…………」  そう言われると、勝は目を伏せてしまう。図星であった。といっても、風俗や過去交際していた女とのその場の勢い、アダルトビデオで目にするくらいで、まさか自分がやる側になるとは想像もしていなかったのだ。

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