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木村勝編6-2 ※拡張
状況に似合わぬ優しげな手つきに不思議そうに目を細めた勝であったが、次にローションボトルが置かれると、また尻を犯される現実を改めて認識してしまい、小さく唸った。
今までの神嶽との行為や、柳と蓮見の二人に代わる代わるたっぷりと可愛がられたアナルは、すっかり男の味を覚えてしまったかのように柔らかく盛り上がっている。
皺とその周りにローションを塗りつけ、中指の腹でソフトに撫で回し、中心に添えてゆっくりと押し込むようにすると、綻び始めたそこは素直に指を受け入れていった。
「括約筋も所詮は筋肉だからな。こうして優しくマッサージしていると緩んでくる。指が入っていく感覚がよくわかるだろう」
「あ……あんたが、優しくとか……し、白々しいんだよっ……! ううっ、こんな……早く、終わらせっ……うぐぐぐっ……むううぅん……」
「口ではそう言っても、やはり感じるようだな」
「かっ……感じて、なんか、ないっ……」
(指がっ……いつもより、優しい……はぁ……やべ……そうっ、その辺っ、撫でられると……結構良いかも……)
勝は表面上の抵抗は見せながらも、とろんと眠たそうな薄目になり、神嶽に身を委ねるようにしている。
さすがの勝でも命だけは惜しく、無理やりに立場を教え込まれる犬のように萎縮してしまっていることもあるが、それだけではない。元々、性欲は旺盛な男なのだ。
昨夜のような異常な環境ではなく、過ごし慣れた学園内で、ひとまずは見知った凌辱者と二人きり。
そして的確にポイントを捉えた丁寧な指の動きは、勝にとって既に心地良く感じてしまうほどのものであった。
指を二本に増やされても、入る瞬間少し眉をしかめた程度で、もう前ほど痛みは感じないようだ。
「ハァッ……ん……おっ、ふうぅ……そ、それ……やめ……っ」
「アナルを指でほじられるのは気持ちが良いだろう、勝。お前自身、既にここを虐められる快感は覚えているはずだ」
核心を突かれながらも、認めたくない一心で勝はぶんぶんと首を横に振る。
(な、なんで……わかるんだ……。俺、そんなにわかりやすい顔してんのか……? そういえば、学園長、昨日も嘘を付けると思うなとかって……でも……そんなの……ただのハッタリだ……。そうだぜ……こんな悪趣味野郎に俺の何がわかるって言うんだっ……)
神嶽はググッと指を根元まで押し込んだまま、前立腺を小刻みに掻きむしってやった。
「ウゥゥウウッ!? うあ、あぁあ、ひはあああああっ!?」
いきなり強烈な快感を与えられて、勝の腰がびくんっと跳ねる。
ちびちびと分泌され始めていた我慢汁もどっと溢れ出してきて、粘り気のある濃いそれが彼の腹を汚した。
「んんっぐ……ハァッ……はあぁ……っ」
全身の力が抜けそうになり、慌てて再度脚を抱え直す。
また優しいタッチになると、深く悩ましい息を吐き出した。
「感じているな、勝」
悔しそうに、しかし今度はこっくりと勝は頷いた。
精神と同様、他人に踏み入られると脆くなってしまう身体なのだ。
「おふっ、おぅんっ……やめっ、そこ……かっ…………感じ、てる……けど……お、おお、おれの……せいじゃ……俺のっ……意思じゃ……ない……」
「またそうやって言い訳をして、逃げるつもりか」
「に……逃げるっ……?」
「そうだ。初めにいじめられた時も、生徒いじめをしても。お前はずっと現実から目を背けることしかして来なかっただろう」
神嶽は真っすぐに勝の顔を見つめる。
人間味のしない、全てを見透かしているかのようにじっと強い力を持った視線。勝はそれすら耐え切れずについ目を逸らしてしまった。
バツが悪そうに唇を噛み締める。神嶽の言葉は、勝の苦い過去を思い起こさせるに十分であった。
(だって……だって、あの時は……なんで俺がこんな目に遭わなくちゃならねぇんだって、パニクって……仕返しとか考えもしなくて……。やっと教師になって憂さを晴らせるって思ったのに、馬鹿な生徒共がどんどん調子に乗りやがるせいで、大事になるのはさすがに怖くなって……そうするしか……!)
「状況を打破したいのならば多少なりとも抵抗は必要だ。だがお前はそれをしなかった。俺にもそうだ。謝って許してもらおうとしながら、もし駄目だった場合を考えてより楽に済む逃げ道は作っている。結局お前は、変革など求めてはいない。可哀想な自分に酔っているだけだ」
「────っ!」
高まっていく悦楽に蕩けそうになっていた目が、認めたくない心を突き付けられる恐怖にも似た感情を映し出した。
(……酔ってる……? 俺が……? そう、なのかな……俺……もうこんなことやめてもらうつもりでここに来た……でも……頭の隅ではまた犯されるかもって、思ってた……。わかってて……諦めて処理して来たんだ……)
無意識の心理をも言い当てられ、勝の思考が波を打ったように揺れる。
「本当は菅沼に嫉妬していたのだろう。変わろうとするあいつを見ていると、お前は自分がいかにちっぽけな人間であるかわかってしまう」
「……違う……」
「俺に犯される生活ももう受け入れつつあるのだろう。全てを俺のせいにして被害者ぶっていれば、お前はいつまでも弱い自分を認めずに済むからな」
「違──ぅううっ! く、はぁっ、ふぅっ……」
神嶽は二本の指でかき混ぜるようにしていた隙間に、三本目の指を差し入れた。
ねじるようにググッと挿入を試みると、彼の括約筋の抵抗を感じながらも奥へと進み、じわじわと拡張されていく。
「ぐひぃいいっ!? 指ぃっ……駄目だっ! 拡、がる……おうっ、おっ……んんっ……!」
(そっ……そうだ……全部学園長のせいだ……俺は脅されてるからっ、仕方ねぇんだっ……! 俺のせいじゃないっ……俺、何にも悪くないっ……! 俺は……もうそんな風にしか生きられねぇんだよっ……!)
勝は自身の現状を正当化し、再び逃避に走る。
努力が目に見えてくれるスポーツに明け暮れてきた勝にとって、いじめという突如やって来た先の見えない悪夢の日々は、彼の本来戦うべき気力までも奪い去ってしまったのだろう。
勝は傷付くことはもう懲り懲りなのだ。だが、今はまだそれでいい。
相反する思いに悩み苦しみ、逃れられないところまで追い詰められた時、真正面からぶつりかりあって、ゆっくりと答えを導き出していけばいい。
彼の再教育プログラムはまだ始まったばかりなのだから。
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