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木村勝編BAD-2 ※IF、流血

 夜の部室には、練習が終わって帰ったはずの二年から三年までの野球部員達が再び集められていた。 「なーんでこんな時間に呼び出されたんだろうな? お前、なんかしたのか?」 「いや知りませんって。はー、かったりぃ」 「せ、先輩、も、もしかして菅沼の奴、先生に何かチクったんじゃ……」 「変なこと言うなよ。大丈夫だって。あいつにそんな勇気がある訳ねーだろ」  それは部内の菅沼いじめの主犯格である、六人で構成されたグループだ。  急な呼び出しではあったものの、顧問からどうしても直接言わなくてはならない重大な話があるとの連絡があれば、彼らも足を運ばざるを得なかった。  これから何が待つかなど欠片も想像せず雑談をする生徒達の前に、勝はゆらりと幽霊のように現れた。 「ちょ、木村先生。驚かせないでくださいよ」 「ったく、何すかこんな時間に。電気も点けちゃいけないなんて、このまま肝試しでもやるつもりっすか?」  早くも肝を冷やした生徒達が冗談めかして笑い飛ばす。  勝の生徒を眺める瞳は血走っていた。 「なあ…………お前ら……菅沼のいじめ……知ってるよな……。あれ……最初に書き込んだの……俺なんだ……俺が、お前らにあいつをいじめるように仕向けたんだ……」  突然の勝の告白に、生徒達は動揺し、顔を見合わせる。  一方の勝は、常日頃生徒に見せている教育熱心な教師らしい微笑みを湛えている。だがそれは、顔面の左右が非対称にねじ曲がり、恐ろしく演技がかった笑顔だ。 「俺の言うことに釣られて勝手に馬鹿やるお前らを見るのは本っ当に、楽しかった……清々したよ……でも、やればやるほど、わかったんだ……。はは、だってそうだろ」  誰かが暗闇の中にギラリと光るものに気付いて、その場の空気は一瞬にして凍りつく。 「お前らみたいなのがいるからっ! 俺のっ……俺の人生は……めちゃくちゃになったんだあぁあああああああああっ!!」  勝は喉が張り裂けんばかりに叫びながら、ナイフを構えて突進していった。鋭利な刃は手前にいた体格の良い生徒の腹部を躊躇なく切り裂く。  奇しくもそれは明皇学園野球部のエース投手、過去の勝と同じく、野球を愛する気持ちだけは人一倍あった純朴で、不器用な生徒であった。  静寂。そして、引きつるような悲鳴が上がった。  刺された生徒はその場に崩れ落ち、ダラダラと血を垂れ流しながら声にならない苦しみにもがいた。  狭い部室内が阿鼻叫喚となって、一斉に逃げ出そうとする。  勝の真横を掠めて出入り口に向かった一人はどうにかドアノブを回そうとしたが、内側から鍵がかかっていて、ガチャガチャと無意味な金属音を鳴らすだけだ。 「鍵は俺が持ってるからな……もう逃げられねぇよぉ……」  パニック状態の教え子を、勝はその手にかけていく。  いよいよ追い詰められた数人が意を決して勝の凶行を止めろうとかかるが、錯乱した勝に圧倒されてしまったのか押さえつける手は震え、力が入っていない。 「やめてください木村先生っ! 菅沼のことなら何度だって謝りますからっ! も、もうこんなこと……!」 「木村先生ええええっ……!」 「うるせえぇええええっ! 俺は教師! 悪い子を罰する資格がある! 邪魔するなあああああああッ!!」  ヒステリックに咆哮しながら、彼らの腰が引けていたところを狙ってナイフを振り回し、喉や腕を潰していく。  傷を負って倒れ込んだ生徒を一人、また一人。泣いて許しを請う無抵抗の者まで、次々に刺し貫き続ける。 「アヒャッ、アヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!! お前らみたいなのは社会に出たって何も変わらない! のうのうと生きる害悪でしかない! お前らに生きてる価値なんかねぇんだよっ! 死ね死ね死ねえええええええええええええええええ!!」  そう、いつまで経っても勝は自分を傷付けた者達が許せなかった。私怨を晴らす為だけに教職を選んだ。  生徒の将来など考えてもいない、あまりに身勝手な理由。  もしも、あの時。もう嫌だ、辛いんだ、助けてくれと、弱音を吐ける誰かが傍に居てくれたら。  あるいは、何かが、変わったのかもしれない。

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