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鬼塚鉄也編 8-2
神嶽は仕事の手を止めて、扉の方に顔を向けた。
鉄也がノックもせずに逃げ込んだのは他でもない、神嶽のテリトリーである学園長室であった。
「どうした。自ら調教を受けたくなったか」
「調……教……なんて、嫌……ぼ、僕は、ただ……あなたがっ……」
鉄也をこのような絶望の淵へ追いやった張本人である男。本来なら、憎くてたまらなく思っても仕方のない相手だ。
(もうずっと酷いことばかりされて……でも……なんでだろう……どうしても嫌いになれない……修介さんは僕の特別だった……! この人以外にないって思えたのっ! ああっ……僕、ショックでどこかおかしくなっちゃってるのかな……)
だが、神嶽だけは、どんなにぼろぼろになっても、鉄也を見てくれた。
醜く恥ずかしい姿を晒しても、呆れもしないし、愛さないとは言っているが、それは逆を言えば嫌いにもならないということだ。
孤独は鉄也の精神を確実に蝕んでいった。
「今は仕事中だ、帰れ」
「もう嫌っ……こんな生活、耐えられないんですぅっ……! 僕っ、あなたにまで見限られたら……僕の居場所、何もなくなっちゃう……う、ううっ……お願いです……助けて……」
「駄目だ」
「ひぅっ──!?」
交渉の余地のない冷徹な声音に、鉄也の華奢な身体はびくりと震え、涙は後から後から零れてくる。
「その代わり、終業後にまたここに来い。お前に一度だけ、チャンスをくれてやる」
「……ふ、ぇ……? チャンス……?」
鉄也は涙を拭いながら、おずおずと神嶽を見た。
「そうだ。お前が女共から悪質な嫌がらせを受けていることも知っている。お前を苛む全てのものから解放されるか、誰にでも股を開く奉仕奴隷になるか……それを今夜決めよう。いいな、一度だけだ。次はない」
「…………っ」
神嶽の提案に、鉄也は神妙な顔でごくりと息を呑む。
もう何一つ残されていない鉄也は、例えこの先にどんなことが待ち受けようとも、素直に受け入れる他なかった。
夜が更け、鉄也は再びクラブの一室に連れて来られた。
全裸で内診台のような椅子に股をM字に広げた形できつく縛り付けられ、視界はアイマスクで完全に覆われている。
その周りには、神嶽、蓮見、進行役の鷲尾を含めたクラブスタッフ、そして発情した様子の会員達。
(奴隷になんて……絶対に……ならないっ……! 僕は修介さんだけのもの……! それがわかってもらえたら……修介さんだって、きっとやめてくれるっ……)
ここまで来ても、鉄也は奴隷になることだけは頑なに拒んでいた。
しかしそれで良い。それだけ強い覚悟があれば、会員達を存分に楽しませることができる。
神嶽が提示した条件は、こうだ。
鉄也は視覚と身体の自由を奪われ、誰の相手をするかわからない状態で、代わる代わる男に犯される。その際、神嶽の番を当てろというものだ。
実にシンプルかつ難解なゲームであった。
これをクリアできれば鉄也は晴れて自由の身となる。しかしできなければ、本格的に淫売となる日々が始まる。
この狂った日常を終わらせたいと願う意志があるならそのくらいはわかるだろう、と、無茶苦茶な理屈だが、鉄也にとっては正しく神嶽への捨て切れない想いを試すものだ。
集められた男達の逸物は、それぞれ差はあれど、全体的なサイズはみな神嶽とそう変わらない。
そうでなくとも、視界を奪われ、肛門の感覚だけでペニスの違いを判別するなど、困難極まりないことであった。
「さあ、今宵の宴を始めましょう。この可愛らしい奴隷少年は無事に真実の愛を証明することができるのでしょうか……」
演技がかった鷲尾の口上と共に、別のスタッフによってほぐされていた指が抜かれ、いよいよ犯されることを予感して、鉄也はギリッと歯を食いしばる。
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