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鬼塚鉄也編BAD-2 ※IF

「修介さん……最後に、僕のお願いを叶えてくれませんか」 「言ってみろ」 「キス……が、したいんです……」  細々と願望を口にした鉄也。  今にも目の前の男から顔を背けてしまいそうなのに、それ以上にここで退いてしまっては後悔をするとわかっているのだろう。 「僕の身体……もうこれ以上ないってくらいに汚れちゃった……修介さんだけのものだって思って来たのに、いろんな人に抱かれて……どんどんあなたに相応しくない子になっていっちゃった……。だからもう、これっきりで、あなたのことを諦めます……奴隷として生きますから……。どうか今日のことを思い出にさせてください……。お願いします……一生のお願いです、修介さんっ……」  いつになく真剣な眼差しで頼み込む鉄也は、すっかり憔悴しきって生気はない。  だが、その瞳の奥底には、強い決意を秘めている。  そんな鉄也を見据え、神嶽はぱちりと瞬きをした。 「わかった。お前がそれで踏ん切りがつくなら、お安い御用だ」  席を立った神嶽が、硬直する鉄也と向き合った。鉄也の身体は相変わらず細身で、この数ヶ月でやつれてしまったようにも見える。  神嶽が華奢な肩に手を添える。当初のように小さく跳ねたが、それだけで振り払う様子はない。  互いの顔が近付き、ゆっくりと唇が重なり合った。  荒っぽいことはしない。軽くついばむだけの、優しく、ロマンチックな口付け。  やはり悪夢の日々は鉄也の妄想だったのではないかというほどの、甘く穏やかな時間が二人の間を流れる。 「ん、んぅ……はふぅ……修、介、さん……ちゅうぅ……」  ちゅ、とリップ音を立ててキスを交わすたびに鉄也の瞳がとろんと溶けていく。  それだけで腰砕けになりそうになって、神嶽の胸板に置いた手に力を込める。  かと思えば、珍しく彼の方から赤い舌先を覗かせて情熱的に求めてきた。神嶽が誘いに乗ってやると、鉄也は無我夢中で神嶽の口腔を貪る。  いつまでも、どこまでも、この温もりを離したくない。  鉄也は熱心に、収まりきらない唾液が溢れてもなお舌を絡めていた。 (ふあぁ……やっぱり、修介さんとのキスって、ものすごく気持ちいい……。できることなら、このまま……ずっと……一緒に……いたかった…………)  健気な彼に似つかわしくない闇を孕んだ心の声。  その刹那、肉を切り裂く嫌な音が響いた。

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