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鬼塚鉄也編12-7 ※男体妊娠改造
「ハハハ、泣くほど嬉しいんだねぇ。そんなに喜んでくれたなら良かったよ。でも、僕らも慈善事業じゃあないからね。見返りが欲しいんだ」
「ひ……ひぃっ……。僕……これ以上、何をすればいいのっ……」
その問いには、オーナーが鉄也の前に立った。
鉄也の足の先からてっぺんまでを舐めるように視線を動かし、哀れな贄の末路を頭の中で描き笑っている。
「ヒヒヒ……愛の結晶といえば、そりゃあもちろん、子供じゃよなぁ」
(子供……? な、何言ってるの……そんなの、僕、できないよっ……だって女の子じゃない……こ、この人達っ、またそんな風に無茶苦茶なことを言って僕を困らせる気なんだ……)
「そ、そんなのっ、無理に決まってっ……」
しかしオーナーが放った言葉に、鉄也はこの世の真の地獄を知ることになる。
「ほう? 儂の長年の研究を愚弄する気かね? できるんじゃよ、ここではな」
「え…………っ」
男性の妊娠。表では人類が長年に渡って繁栄してきた自然の摂理を覆しかねないとの非難もあり、第一にリスクが大きすぎることから、まだまだ医療は進んでいない。
しかしクラブは常識に囚われない無法地帯だ。倫理観など存在していない。ただ、果てのない歪んだ欲求を満たすまで。
ここはオーナーの巨大な箱庭とも言うべき、恐ろしい場所である。
「ヒヒッ、お前さんのここに人工子宮を埋め込んで、孕ませてやると言っておる。人体実験では既に成功しておるがのう、実際にお披露目するのはお前さんが記念すべき第一号じゃ。服従の証として主人の赤子を身籠る……これほど大層な奉仕はないじゃろう」
オーナーが言いながら、震える鉄也の痩せた下腹を皺くちゃの手で撫でさする。
正真正銘、男である自分が、人工子宮で妊娠する……あまりにも非常識な話に鉄也は理解が追い付かなかった。
「じ、人体実験って……なに……」
「言葉通りの意味だ。このクラブの奴隷は会員達への性奉仕だけでなく、医療の発展に役立つ実験台でもある。例外はない、お前もその一人だ」
(うそ……うそ、嘘、嘘、嘘だよね……? 修介さんの赤ちゃん欲しいって思ったことはあるけどそんなの言葉の綾で……ああ……でも、修介さんの言うことは全部現実になっちゃう……修介さんは……いつだって……本気でッ────)
このような状況でも、神嶽の態度は一切変わらない。それがまた、鉄也を恐怖のどん底へと叩き落とした。
これから鉄也を妊娠できる身体にする手術を行うこと。
鉄也の精子から作る卵子と、クラブから無作為に選んだ男の精子を受精させ、誰の子ともわからぬ受精卵をその身に宿すこと。
そうした詳細がオーナーの口から説明されたが、その想像を絶した言葉の羅列は、今の鉄也にはまったく入ってこなかった。
目の前には実の父親の惨殺死体。
そう遠くないうちに自分もこうなるのではないかと、命の危機を本能的に察知した鉄也は腰を抜かしてしまった。
有無を言わせず、スタッフ達がその場にへたり込んだまま動けない鉄也を無理やり引き起こし、ストレッチャーに拘束していく。
四肢の自由を奪われてから、鉄也はようやくこれから自分の身に降りかかる悪夢を悟った。堰を切ったように喉奥から悲鳴を迸らせ、手足を必死にばたつかせる。
「ひぎぃぁああっ……! やめてっ、ぃやっ、ああぁぁああああぁあああああっ……!! 他のことなら、何でもしますっ、殺さないでっ、いやいやああああああっ!!」
「フフフ、殺さんよ。…………儂の実験が終わるまでは、な」
部屋を後にした鉄也達は、クラブ内のエレベーターを降り、オーナーの聖域とも言える病棟へとやって来た。
そこは宴が繰り広げられる場所とは打って変わって真っ白な壁と床に囲まれている、無機質で異様な雰囲気を醸し出している空間だ。
もうここまで来てしまっては取り合ってもらえないと内心わかっていつつも、鉄也は命乞いをやめることはできない。
案の定、スタッフ達は何も気にならない様子で平然と歩を進め、扉の前に行き着いた。
今までそこでどれだけの非合法が行われたのであろう、おぞましい手術室である。
オーナーは鼻歌混じりに先に入り、待機していた助手達と念入りな計画の最後の確認をし始めた。
「それじゃあ、鉄也。頑張って。数時間で終わる予定ではありますが……次も無事にお会いできることを願っていますよ、ふふふ」
不穏な笑みを浮かべた鷲尾が小さく手を振る。
「待ってえええええ! ねえ修介さん、せっ、せめてぇっ、修介さんとの赤ちゃんですよね!? そうなんですよねぇっ!?」
必死に訴える鉄也に対し、神嶽は最後にぽつりと、
「誰の子を孕むか楽しみだな、鉄也」
そう何の感慨もない声音で言った。
「嫌ああああああああっ!! 修介さん助けてええええええっ!! だ、助げぇッ────」
錯乱状態で泣き叫ぶ鉄也は、無情にも手術室へと消えていった。
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