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鬼塚鉄也編END-5 ※男体妊娠、死産
ふと、安定していたはずの胎児の心拍が急激に低下した。
監視装置からけたたましいアラーム音が鳴りだし、オーナーが僅かに目を細める。
頭部がゆっくりと下り、赤子の顔が見えてくる。その顔面は鬱血し、既に生気はなかった。
狭いバイパスと結腸を通るうちにへその緒が捻れて絡まってしまったのだろう、ギリギリと強く絞首されているのだ。
やがて、モニターに「0」の数字が映し出されても、オーナーは気を取り直したかのように小さく笑ったのみであった。それを見ていた助手達も納得したのか誰も何も言わなかった。
医師ならば、いいや、少しでも情けを持った人間ならば、人命優先の素早い行動をとらなくてはならない。しかしオーナーは見殺しにすることを決めたのだ。
もちろん、本当に赤ん坊が欲しい訳ではない。ただただ、狂気に満ち溢れたショーが見たいだけである。
「う、産まれるっ、産まれ……るゥッ!! おあぁあああああああああッ!! っぎゃはあぁぁぁああああああアアアアアアアアアアッ!!」
鉄也が人間が発したとは思えない獣じみた咆哮を上げた瞬間、開き切ったアナルから遂に胎児が飛び出してきた。
助手がしっかりと受け止め、オーナーも夢の“研究成果”を目の前に、その鬼畜の所業とは不釣り合いな無邪気な表情を見せた。
おおお……と広間がどよめいて、想像を遥かに超えた肛門出産を成し遂げた鉄也の勇姿に、客席の会員達は自然と立ち上がり、割れんばかりの拍手が沸き起こっていた。
「うおおっ……! こ、ここまで凄まじい出産ショーはいつぞやの令嬢と同等……いやそれ以上なのでは」
「なんということだ! 今日の宴は一生忘れないよ! 実に素晴らしいっ、最高だ!」
会員らは興奮のあまり叫び、涙し、その場で大量の万札を撒いて投げる者さえいた。
しかし、拍手が鳴り止み、広間がしんと静まり返る頃になっても、産声が聞こえてくることはなかった。
赤ん坊は、既に息を引き取っていたのだった。
「どう致しますか」
「ヒヒ、いつも通りじゃよ。中身もちゃんとした人間か見てみたいのう」
一応の蘇生処置を行っていた助手とオーナーが小声でやり取りしている。
その他の助手は手早く後始末を始めたり、カルテに何やら書き記していたり、鉄也の汗や出血を拭いたりしている。
このクラブで生を受けた子供の末路は、大きく分けて三つ。
手っ取り早い方法は、母子共々殺されること。
出産させることを決めたなら、胎児が女であれば、そのまま生まれながらのクラブ専用性奴隷として使われる。
男であれば、特別な理由がない限りは、産み落としたその場で惨殺ショーのプログラムが増えるというものだ。
「っぁ…………あか、ひゃん……しゅうすけさんのぉ……あかひゃん……」
鉄也は消耗しきった身でありながらも、どうにか指先を動かして我が子に触れさせて欲しいと意思表示した。
しかし望み叶わず、赤ん坊は奪い取られ、見世物とばかりに無造作に床に転がされた。
全身を鬱血させ、血液や腸液に塗れ、しかしまるで寝ているだけかのように安らかな人間の顔をしたそれ。
股間にはまだごく小さなものであるが、この場にいる男たちと同じ生殖器が存在している。
まごうことなき、愛らしい男の子。
そう、男だ。
“彼”の末路など、こうして日の目を見ぬ内から既に決まっていた。
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