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如月司編2-1
いきなり何の調教も受けていない人間をクラブに連れて行くというのは少々無茶なことだった。
その場限りの使い捨てならまだしも、これからも表社会で生きなくてはならない人間となると、クラブの場所や、もちろんあそこで行われているあらゆる犯罪行為を口外されることも防がなくてはならない。それが常識を持った者であればあるほど、面倒は多い。
だが、神嶽が司に最初からそうしたのには理由があった。
司は頭が良い。神嶽の脅しが口だけではないことをその身でもって痛感しない限り、司もまた本当にクラブを潰そうと動くだろう。
いくらクラブが裏社会で強大な権力を持つとはいえ、如月グループの力を持ってすれば少なからず損害が出る可能性がある。
そんなリスクを背負ってでも司を選んだことに意味があったのかは、クラブとしても神嶽の手腕に賭けるしかなかった。
どれくらい走っただろうか。そう遠くはないはずの場所で、車は止まった。
「着いたぞ」
神嶽の声の反響から、司はここが地下駐車場だと推測した。
目隠しをされたままである司は方向感覚が掴めずよろめいたが、神嶽に身体を支えられてなんとか歩きだした。
エレベーターに乗って地下深くまで降り、到着した先で少し進むと足音は消えた。部屋全体に絨毯が敷き詰められている為だ。
そこからまた長い廊下を歩き、とある部屋に入ると、そこで司はマスクを外された。
しばらく眩しさに目を開けられなかったが、徐々に慣れてくると、司はようやく周囲を見渡すことができた。
(な……なんだ、この趣味の悪い部屋は……? 一体、どこなんだ……?)
クラブの内装は壁紙や絨毯、家具、照明に至るまで赤いものがほとんどだ。
中でも、司がぎょっと目を剥いたのは、一見すると産婦人科の内診台のような、それにしては四肢の部分に革ベルトがついて逃れられないようになっている、拘束器具であった。
ここは、クラブの人間からは調教、または拷問部屋と呼ばれている個室だ。
「服を全て脱いで、そこに座るんだ」
「なっ……。どうして、私がそんなことを……」
神嶽は答えなかった。無言で背中を押され、司は神嶽を一睨みはしたが、弱みを握られていては、何が待ち構えていようと大人しく従うしかなかった。
神嶽は裸になった司の手首と足首をベルトで固定すると、台のスイッチを操作して適切な高さに調整し、背もたれを倒した。
もちろん診察などではないので仕切りのカーテンはないし、バスタオルさえかけてもらえない。生まれたままの恥ずかしい格好で拘束され、司は思わず顔を背けた。
その羞恥の表情に、神嶽の感覚機能からは大勢の愉悦の声が聞こえていた。
この部屋には至る所にカメラとマイクが設置されており、広間の会員達に全て生中継されている。
まだ何の調教も受けていない初々しい人間の映像に、会員達は大いに盛り上がった。
神嶽は少し腰を曲げ、司の萎えたペニスを手の平に乗せた。それだけで刺激を加えることもなく、じっと観察する。少し皮を被っていて、色素沈着のない亀頭が見え隠れしているが、勃起すれば特に問題はなさそうだった。
「ずいぶん綺麗な色をしているな。自分では弄らないのか。それとも、如月家では性教育までは徹底していないか」
(そ……そんなはしたないこと……! そのくらい……教科書の範囲で知っていれば良いんだ……)
司は図星であった。男の手で大事なところを触れられて、司の顔がみるみるうちに真っ赤になる。
「は、離せ! どこを触っているんだっ。このっ……私が誰だかわかってやっているのかっ!?」
「ああ。成り上がりの薄汚い血が流れる如月司お坊っちゃま、だ」
「っ…………!」
(な、なんて酷いことを……如月家は代々高貴な血を受け継いでいるんだ! 時代が時代ならばお前なんかが触ることも許されないほど高い身分にあるというのに……!)
司の血筋は正真正銘の非成金であるが、神嶽はわざとそうして彼の羞恥を煽る。案の定、司は言葉を失った。
「わ、私にこんな真似をしてっ……ただで済むと、思うな……。いつか、私に手を出したことを後悔させてやる……」
「そうか。なら、まずはこれから起きることに耐えてみせろ」
神嶽が言うと、部屋には黒服の男達が入ってきた。
司は神嶽だけでも嫌だというのに、全く想定外の訪問者である。
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