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如月司編6-1
司が生徒会の定例会を終えた頃には、学園内に響く生徒達の声もだいぶ少なくなってきていた。
生徒会長である司は、勉学以外でもなかなかに忙しい身である。もうすぐ生徒総会もあるから、話し合うことも山積みであった。
他の役員が帰った後も、完璧主義が祟って気になるところはすぐに確認しておかないと気が済まず、書類の束と睨めっこをしながらも手際よくまとめていく。
そうして、ようやく己の仕事を終えた司は学園長室に向かおうとした。先日のクラブでの凌辱の後も、相も変わらず神嶽に呼び出されていた為だ。
だが、鞄を持って席を立った瞬間、司の動きが止まった。ガラッと扉が開かれ、視線の先に神嶽が立っている。
司は神嶽を睨み付け、短くため息を吐いた。不本意ながらも、日々彼の相手をする中で、一連の行為に慣れてきている節がある。
このように脅されて同性への性的奉仕を強要させられる嫌悪は薄れないが、ただでさえ一日の疲労が積み重なっているところに、神嶽に調教される憂鬱な時間が増えたときている。もう面倒臭ささえ抱いてしまう始末であった。
「……呆れた男だ、お前は。私は逃げも隠れもしないと言っているのに。少しくらい待てないのか」
(ふんっ、どうせ今日も一日中私を犯すことばかり考えていたに違いない……なんて卑しい人間なんだ……)
「まだ立場をわかっていないようだな。いつお前を犯すかは俺が決めることだ」
普段と何ら変わらないその冷徹な言葉に、司は憎々しげな目を向ける──ところであったが、今日の司は違った。
神嶽が近付いて来ても動じない。当初のように自信満々に、目の前の表情の変化に乏しい凌辱者をせせら笑ってみせた。
「……ふはっ。立場だと? この期に及んでわかっていないのはお前の方ではないのか」
「どういう意味だ」
すっかり鬼の首を取ったかのような気でいる司に、神嶽は一応は聞いてやるとばかりに首を傾げる。
司は鞄の中から一枚の写真を取り出した。
「この男は知っているな。とぼけても無駄だ。あのクラブで支配人と呼ばれていたお前が知らないはずはない」
写真には中学時代と思しき司と、ずっしりと威圧するような雰囲気をした年配男が共に写っている。背景や服装から察するに如月家が主催するパーティーで撮られたものらしい。
「この間クラブにいた連中……仮面のせいで顔はわからなかったが、一人だけ以前にも声を聞いたことがある男がいたんだ。どうにも生理的に受け付けない奴だったからよく覚えている。こいつのことは徹底的に調べさせてもらったが、ずいぶんと黒い噂のある男のようだな。そして、それを裏でほう助しているのは、あのクラブ……そう考えれば合点のいくことばかりだった」
どうしてもクラブの内情を探りたいからといって表立って行動すれば、すぐに神嶽の耳に入ってしまうだろうと司は勘付いている。如月家に潜ませた人間をも上手く欺いたというわけだ。
「私がこいつを警察に……いや、正攻法では無理だろう、まずはマスコミの餌にしたとする。そうなれば、いずれあのクラブで起こっていることやお前の正体も暴かれていくだろうな。こいつは言わば人質だ。お前が握っている如月家の情報を全てこちらに寄越して、二度とその顔を見せないと約束するなら、私もこの件は墓場まで持っていくと誓ってやる」
やはり司は愚鈍な人間ではなかった。あの狂乱の中でも持ち前の記憶力で、身近に潜む会員を探り当てた。
今までにもクラブの壊滅を目論んだ連中は大勢いたが、中でも司はこの歳にしてはずいぶん粘り強い。危険なことだとわかっていながら、臆することなく行動を起こす勇気もある。
この学園の生徒会長として申し分のない男だ。
「それに、お前はクラブでは高い地位にいるのだろう? そのお前がわざわざこうして自ら出向いているというのに、奴隷扱いする人間に秘密が知れたとなれば……自分の首も危ういのではないか。ここは大人しく私の言うことを聞いて身を引いた方が得策だと思うがな」
神嶽は司の話を終始黙って聞いていたが、司が嘲笑するように鼻を鳴らすと、ぱちりと瞬きをした。
司が未だ神嶽に弱みを握られていることには変わりない。
警察組織を頼れば、自ずと如月家の不正も露見することとなり、互いに無傷では済まない。だからこそ司は平和的な解決を望んでいる。
それに司が知り得たクラブが加担している犯罪行為など、氷山の一角に過ぎないのだから。
司が調べうる範囲など初めから想定内である。更に言うなれば、司の戦意を削ぐ為にあえて泳がせ尻尾を掴ませた。
何も問題はない。司の立場など一つも変わっていないのだ。
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