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如月司編8-1※亀頭責め
日常では変わらず凛としている司は、どこにいても目立つ存在であった。
容姿だけではない、育ちの良さが纏うオーラ、そして近頃は高潔さの中にもどことなく儚い色気さえ滲み出ているようだ。
あの司でさえいよいよ女を知ったのではないかと勝手に噂し、勝手に焦る連中もいたが、司の置かれた状況に比べれば取るに足らぬ悩みだった。
生徒総会のため移動する生徒達の中に司の姿を捉えると、神嶽はその肩を叩いた。
「如月くん、ちょっと良いかい」
もはや聞き慣れた白々しい声に、司は一瞬だけ嫌そうな顔をしたが、周りの役員達に怪しまれてはいけないとすぐに表情を消した。
そして先に体育館に向かってもらうよう断りを入れ、大人しく神嶽について行った。
人気の少なくなった廊下、神嶽が司を連れ込んだのは男子トイレであった。
「……いったい、何の用なんだ。お前だってこんなところでもたもたしている暇はないだろう」
総会の中心人物ともいえる司は、生徒会長としての責務をまっとうすべくそれなりに緊張感を持って臨もうとしていた。
それを直前に神嶽に邪魔されたのだ、眉間に皺をつくって、あからさまに不機嫌な顔をしている。
「ああ。お前に渡したいものがあって来ただけだ」
そう言って、神嶽があるものを取り出す。司はその手を訝しく凝視していたが、目の前に突き出されると、不思議そうな顔になった。
「これは……?」
神嶽の手の平に収まっていたのは、ドーム状の樹脂キャップであった。側面には小さなモーターが二つついていて、ロケットのような形をしている。
司には、どこか子供の玩具のようなそれがどういった意図で使われるものなのか、皆目検討がつかなかった。
司が相変わらず感情の起伏のない神嶽の顔を見つめると、神嶽はスラックスのポケットからリモコンと思しき機械をちらりと覗かせた。
「お前がそれをチンポの先に装着する。そして俺がこのリモコンで遠隔操作すると、そのモーターが振動してお前のチンポを刺激するようになっている」
「な……っ」
淡々と言われ、司はこれこそが今日の責め苦なのだと瞬時に悟った。性的用途に使われる玩具があるなどとは司の常識にはない。
神嶽が見せしめにその亀頭責めローターのスイッチを入れると、彼の手元で微振動しながらブゥン……と低く弱い音を発する。司は思わず飛び退きそうになった。
「し、神聖な学園を貶めるのもいい加減にしろ! あ、あのクラブでするならともかく、な、何も知らない全校生徒が集まっている場で辱めを受けるなど、冗談では……」
「お前に拒否権などない。皆まで巻き込みたくはないだろう」
「そ、それはっ……あぁ……しかし……もし、ばれたらっ……」
副会長や優子といった身近な人間の比ではない人数の前で凌辱される背徳感には、さすがの司も躊躇していた。
司を試す為とはいえ、神嶽からしても当然リスクはある。だが、そんな中でも神嶽の態度は変わらない。司がどうなろうが己の身に火の粉が降り注ぐことはないと、絶対の自信があるように。
「そうなっても、普段は性欲など欠片もなさそうなお前が、裏では大胆なオナニーを好むドスケベの変態男という事実が露見するだけだ。あれだけの数の人間が証人になれば言い逃れはできない。由緒正しき如月家は淫乱の血が入っていると周りから白い目で見られることになる」
「……どこまでも私一人に罪を着せる気なのだな」
(まったくなんて奴……正気の沙汰とは思えない……)
司はじっと神嶽を睨んだのち、諦めたように肩を落として俯いた。
ただでさえ大切な家を盾にされているというのに、そこに更に全校生徒という人数を持ちかけられては、正義感の強い司は素直に従うほかない。
以前の運転手のように、自身の軽率な行動によって他人の人生まで狂わせてしまうことは絶対に避けなければならなかった。
「……ふんっ」
せめてもの抵抗に鼻を鳴らし、司は渋々ローターを受け取ったが、すぐに視線を逸らした。
これが何に使うものなのかわかってしまった今はもう、見たい訳がないのだ。一刻も早く視界から外そうと、ポケットにしまおうとする。
だが、神嶽の手が司の手首を捕まえる方が早かった。
「今ここで付けろ」
どんなに理不尽なことであっても、今の司に神嶽の命令は絶対だ。
(ああ……こいつはどうしても私に恥をかかせたいのだな……どこまでも悪趣味な男……)
いつも先を行って逃げ場を潰してくる神嶽に、司は呆れるばかりだ。恨めしそうな顔を向けつつも、何も言わず頷いて個室に入った。
「皮を剥いてしっかりと亀頭に被せるんだ」
「…………っ」
「手伝ってやろうか」
「……ひ、一人でできる……」
「そうか」
司の返事を聞くなり、神嶽は踵を返して去って行く。
コツコツと響く革靴の足音が遠くなっていくのを聞きながら、司は大きくため息を吐いていた。
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