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如月司編9-1 ※フェラ

 神嶽に連れられてクラブへやって来た司は、初めて目にする広間を訝しく見渡していた。  やはりあの仮面をつけた会員達が、身につけることを許されているのは堅苦しい銀縁眼鏡と、このクラブの奴隷を表す首輪だけという状態の司を感慨深そうに眺めながら待っている。  テーブル席だけでも優に数百を超える悪趣味な男達のあからさまな情欲に満ちた笑みを向けられると、さすがの司も顔が引きつりそうになった。  見るものが見ればそれだけで頭が痛くなるような人数、それを集められるだけのクラブの組織力にも圧倒されてしまったのだ。  司は気を抜けばこの異様な空間に引きずり込まれてしまいそうな精神を落ち着ける為にも深呼吸し、それほど心を乱すことなく彼らを一瞥した。 (……まったく、こうして他人を犯す為だけに大金と時間を注ぎ込むなど……異常性癖の性犯罪者が考えることは一生理解できそうにない)  クラブには女性会員もいるが、今宵は参加希望者の中から男、それも特に性欲の強い者を選んで招待されていた。  奴隷としては新人ながらも、如月家というブランドのある司は社会的地位の高い彼らに広い知名度があり、クラブ内でももっぱら早く彼を味わってみたいとの話題で持ち切りだった。   それも現在は、クラブの完全なる奴隷に成り下がるまでの貴重な調教期間ときている。そこに参加できるとなれば、いつも以上に金を惜しまなかった。  高嶺の花である司本人を前にして、皆、高揚を隠せない。早くも下半身をくつろげ、視姦しながら扱き始めている者が視界に映り、司は心底呆れて目を逸らした。  今日はテーブル席につき、集まった会員に直接奉仕することとなっている。しかし、あくまで口と手による奉仕のみという条件付きであった。  “奴隷にとってチンポは崇高なものでありザーメンはご褒美”などとクラブでしか通じない滅茶苦茶なルールを持ち出し、司に精液を搾取させようと言うのだ。  辛い行為には変わりないが、肛門を使わないだけ司にはマシに思えていた。  すっかり弱くなってしまったアナルをファックされるのは体力の消耗も激しく、狂おしいほどの快楽を生んで司の判断力を鈍らせる。  それを避けられるなら、司はなおさら、やるしかないのだ。  司がまずついたのは、舞台から一番近いVIP席であった。神嶽に首輪に通された鎖を引かれ、司はゆっくりとその場に正座した。 「み……皆様……」  小さく息を吐いて、神嶽に言われている口上を述べる。 「ほ、本日も……私のような未熟な奴隷の調教にご参加頂き、感謝に堪えません……。皆様のご期待にお応えできるよう……ど、どんなことでも……精一杯、努力していく所存です……」 「ほう、どんなことでも……ねぇ?」 「は、はい……」  意味ありげにニヤニヤと口角を吊り上げる会員を恨めしそうに睨みつつ頷く。  司はそのまま両手を赤い絨毯につけ、深々と頭を下げた。 「……ですからどうか、この……チンポ大好きな卑しい奴隷めに……ご慈悲を……お願い致します」  神嶽と出会わずにエリート街道を歩んでいればまず経験するはずもなかっただろう無法者に対しての座礼と、恥ずかしい台詞。  それは凄まじい屈辱であったが、怒りを露わにすることなく、ブルブルと震えるだけにとどまっていた。  前回の頑張りもあり、司はいきなり三人の男の相手をすることとなった。形や大きさは異なれど、それでどれだけの人間を蹂躙してきたのだろうグロテスクなペニスが取り出されると、司は小さく唸った。 「フフフ、そのいやらしいお口と両手で一気に三本を扱けるわけだ。嬉しいだろう」 (勝手に言っていろ、屑どもめ……。そうやって下品に鼻を伸ばしている表情がどれだけ醜いか、鏡で見せてやりたいくらいだ) 「…………そ、そう、です……あぁ……嬉しい……です……」  隠しようのない心の声は何事もハッキリと物を言う司らしく刺々しいものであったが、今宵は司にしては珍しく、自ら会員達を悦ばせる台詞を口にしてみせていた。  これ見よがしに勃起を揺らされて、司は両側の男のものをそっと握り、そして正面の男の股間に顔を埋めた。  愛しみさえするような仕草で口付け、優しい手つきで、緩々と扱き始めた。 「んぶ、れろおぉ……お客様のチンポぉ……どれも、熱いれふ……」 「司くんが相手だからこんなになっているんだよ」 「僕は今日のことが楽しみでね、一週間も溜めて来ちゃったよ」 「皆さん性が出ますな、わはは」  ねっとりと舌を這わせつつ、繊細な手つきで男根を味わう司を、彼らは高らかに笑う。  しかしそれが心にもない言葉だと、会員達も察していた。

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