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如月司編10-6 ※END分岐

 ひゅうっと喉が鳴り、新たな酸素を吸い込んだところで咳き込んだ。 (もっと……頑張らなきゃ、いけないのに…………でも……もう…………駄目、かもしれない……)  気丈であった司に似合わぬ弱音を心で吐露しながら、微睡みの中に堕ちそうになる。 「ぶッ──ふぅうっ!? はっ、ぁがっ、ハァーッ……!?」  意識を失いかけたその瞬間、また冷水が思い切り降り注いだ。ほんの僅かな時間、現実から逃げることもままならない。  司は快楽という名の暴力に打ちのめされ、顔を緩ませたまま、ぼうっと神嶽を仰ぐ。 「何をそんなに頑張っているんだ、司」  冷たく見下ろす神嶽は、恐ろしいまでに人間味というものを感じさせない佇まいだ。 「本当はお前ももうわかっているはずだ。誰にも負けないつもりで努力したところで、お前の敬愛する両親が認めてくれることはないと」 「あ、あぁ、あ……」 (ち……違……そんなことはない……叱られるのだって、私の努力が足りないから……まだどこか見落としていることがあるから……頑張って、頑張って……そうすれば……きっといつかは、認めてくれるはず……)  紡ぎ出された言葉に司の顔が蒼白になっていく。  司がこれまで将来如月家を背負っていく男として生きる上で、心の奥底に封じ込めていた呪縛。  上手く動かない肢体がその先は聞きたくないと身じろぎをする。  なおも神嶽は司を苦しめる言霊を吐き続ける。 「どれだけやってもお前の気持ちなど真に伝わって欲しい人間には伝わらない。お前はそうやって誰にも理解されず、自分を殺してまで、一生如月に縛られて生きることが本望なのか」 「や……や、め……」 「お前の人生はいったい誰の為にある」 「うああああああああ!! もう言うなっ! これ以上私を貶めるなぁっ! ひゃめろおっおおおおおおおお!!」  神嶽のとどめの一言に、司はたまらず断末魔のごとき叫び声を上げた。 「────言ったな」 「っ……! ぁ……う、うぅぅっ……ぐすっ……えぐぅっ……!」  敗北を認めた瞬間、司の瞳から新たに溢れた涙が頬を伝う。  ただの強がりでしかないことは本当はわかっていたはずだった。しかし後にも引けない司は無謀な挑戦を受け、その結果がこれだ。悔しさで死ねるなら今すぐ死んでしまいそうだった。  そもそも初めから一人で解決しようとしなければ、何かが変わっていたのか……今さら考えても仕方のないことが泉のように湧いては涙と共に流れていく。  司が小さな子供のように顔を伏せてすすり泣く様に、会員達はひときわ満足げな笑みを浮かべ、館内が喝采に包まれる。  神嶽はそっと司の濡れた頭を撫でた。結果的に司の覚悟は脆くも崩れ去ってしまった。しかしここまで耐えたことを褒め称えるかのようであった。 (こんな時ばかり……優しくしないでくれっ……い、今そんな風にされたら……私はもう……)  壊れ物を扱うかのような手つきは、犯し尽くされた司の身に染みた。 (お前は何を考えているっ……?)  答えの出ない疑問を抱えながら、司の意識はすうっと遠のいていった。

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