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如月司編11-2 ※覗き
放課後になり、神嶽は司を迎えに彼のクラスまで足を運んだ。
司も不本意ながらも帰り支度を済ませると、何も言わず学園長室に向かう。
もはや余計な会話もない。二人は肩を並べて人気の少なくなった廊下を歩いた。
(ああ……今日も始まってしまう……)
部屋に入ってすぐ、司は恥辱の時間への不安に大きくため息を吐いた。
それを神嶽に一瞥されると、叱られたような顔で俯いてしまう。
神嶽はいつもと変わらぬ横柄な態度で、ソファーにふんぞりかえった。
司もまた察しの良さは健在だ。神嶽が何も言わなくとも、今回は奉仕をさせたいのだとわかり、軽く息をついて神嶽の下肢の間に跪いた。
司にとってフェラチオはもう慣れたものであった。肉幹にねっとりと舌を絡ませ、しゃぶり、吸い上げ、そうして赤く色付いた唇で熱っぽく扱き立てる。男の悦ばせ方をきっちりと学習した娼婦のような動き。
しばらく好きにさせてやってから、神嶽が両手で司の頭を掴む。それだけで司はイラマチオをされるとわかり身を固くする。
「ぐっ! ふっ……んぶっ……! おえぇっ……!」
頭を前後に動かし始めると、司は眉をひそめ、激しいイラマチオにも気丈に耐える。
限界まで口を大きく開け、喉も開かせるようにして、深く受け入れようと努力する。
それでも傘の部分が口蓋垂を通り越すたび、抑えきれぬ生理的な涙を零す。
「喉マンは気持ちいいか、司」
「ぉっ、ご……がぁっ……ふ、ふうぅっ、ぐぼぇっ……」
(こんなに苦しいのに、気持ちいいなんて……私はきっとこいつに汚され尽くしてしまったんだ……元の私には……もう……戻れない……っ)
えずきながらも首を小さく縦に振る。
どれだけ否定しても事実は事実なのだ。だったらそう意地を張らずに認めてしまった方が楽だ。
それで神嶽を悦ばせることができたなら、早く終わってくれるはず。
そんな思考が嫌悪より先に出てきてしまうほど、司は貶められていた。
体力の限界を超えるセックスを強いられた時は、疲れたと正直に訴えた。
顎が痛いからフェラもしたくないと、そんなわがままは許されないとわかっていながら口にしてみせたこともあった。
強がりの得意な司が、だんだんと神嶽の前で弱みを見せるようになっていた。
神嶽が必死に奉仕を試みている司の髪を掻き上げると、もうずいぶん長く寝不足が続いているのだろう、目元には隈が浮き出ている。 生まれつきの美しさの中に、病的な儚ささえ感じられる。彼はもう疲れ果てる寸前だ。
しかし、まだだ。司の心の強さは並大抵のものではない。
両親との確執に無理やり向き合わされた今、一時的に弱ることがあっても、揺れ動く思いがどう転んでいくのかは、もう一歩踏み込んで確かめる必要がある。
指定しておいた時刻、神嶽は学園長室の扉に視線をやる。
今日は、鍵を閉めていない。それも、ほんの少し隙間をつくっておいた。
ちょうど人一人が、僅かに部屋の中を覗けるくらいの隙間だ。
「んごぶっ、うぐぅぅっ……じゅぽおぉ……! ゲフッ、ふぅ、ふぅ……おぇっ……ずりゅりゅうぅぅ……」
一心不乱に目の前の肉棒を口で扱いている今の司は、いつもと異なる状況であることに勘付くまでの余裕はない。
開いておいた扉の間から、人影が見えた。
自由な校風である学園の生徒にしてもかなり目立つ、明るく染めた髪色。
それは裕福な者が通うこの学園を象徴するかのように、伸び伸びと青春を謳歌している男子生徒のものだ。
(うわ……ちょっ、マジかよ……あれ……うちの生徒だよな……? が、学園長……何やって……)
何も知らずのこのことやって来た隼人は、神嶽の思惑通り、こっそりと学園長室での情事を覗き見ていた。
だが、声を上げることも、物音を立てることもない。あまりの驚きでそれさえ忘れ、固まってしまっているのだろう。
その場に立ち竦んだままどうにか他に知り得る情報がないかと、視線が動く。
(え……つ、司……? なん、だよ……あの二人、こんなところで、あぁ、嘘だろっ……!?)
神嶽の股間で身じろぐ生徒が司だとわかると、隼人は胸の内で不快感を露わにした。
神嶽との話の中で話題に上げたばかりの、それも幼い頃からの付き合いであるから女との交際経験もないと知っていた司が、神聖な学園内で学園長と秘め事に耽っているなど、隼人にはとても信じられない。
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