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如月司編12-1 ※神嶽×隼人

 隼人は朝からため息ばかりついていた。  その原因はもちろん、昨日の夕刻、学園長室で目撃してしまった秘め事にある。  普段であれば、司がなにか恥ずかしい失敗をしようものならしめたものだとすぐに友人達に言いふらしてしまう隼人であったが、こればっかりは誰にも言えなかった。  司を抱いていたのが、父の友人として信頼していた学園長であった。  幼なじみの見たことのない姿を目にしたどころか──最後まで情事を見届けてしまったなどとは、誰が言えようか。  その背徳感は後からじわじわと隼人に罪の意識を芽生えさせた。  そんなことを考えていたからだろうか。校舎に入ってすぐに、隼人は最も出会いたくない人物に鉢合わせしてしまった。 「司…………」  昇降口で上履きに履き替えていた司に向かい、隼人がぽつり、と彼の名を口にする。  顔を上げた司は動揺を隠せない隼人とは違い、良くも悪くもいつも通りのクールな態度でいたため、それがまた隼人を困惑させた。 「なんだ、人の顔をそんな風にじろじろと見て。何か問題でもあるのか?」 「えっ? あ、いや……そうじゃなくて、えっと……」 「……それなら、まだ私に子供じみた嫌味を言いたいとでも? 好きにすればいい。お前なんかと違って私は忙しいんだ。お前とこうして喋っている時間さえ惜しい。用がないなら失礼する」  司は眉間に皺を寄せ、不機嫌を露わに早々に背を向けてしまう。 「……あっ、ち、ちょっと、待てよ。なあ、司、お前……」  さっさと行ってしまおうとする司を追いかけて、隼人が肩を掴んだ。  司が振り向いたその瞬間、隼人の脳裏で、見慣れていたはずの彼の美貌と、昨日の淫らな行為の光景が重なってしまう。  至極真面目で、性的なものとは対極の立場にいたあの司が──どっと嫌な汗が噴き出し、隼人は慌てて手を引っ込めた。  司は隼人に触れられた箇所を埃を払うようにして、キッと隼人をきつく睨んだ。  それは犬猿の仲である二人の間では日常茶飯事の嫌味がましい動作ではあったが、隼人はそれ以上は言えなかった。 (な……なんだ、あれ……? 司って……あんな奴、だったか……? あぁ、わからない……お、オレ……呼び止めたりなんかして、何を言うつもりだったんだろう……)  相変わらず愛想の悪い司にめげず、言い返すことすら、小心者の隼人にはできなかった。  大きく肩を落として、隼人も教室に向かおうと、とぼとぼ廊下へ歩みを進める。  が、目の前に立ち塞がった男を見るなり、ビクッと震えてその身を緊張させた。 「おはよう、隼人くん」 「おっ…………おお、おはよう……ございます……が、学園長先生……」  司と同じく、昨日の今日では実に気まずい人物だ。挨拶をするにも思わず声が上擦ってしまう。  神嶽は普段通り、隼人のよく知る優しい学園長の仮面を被って微笑んでいる。  一方、隼人は視線を床に落としたまま、どんな顔をしていいかわからず眉をひそめている。 「昨日はずっと学園長室の前に居ただろう? 声を掛けてくれても良かったのに、水臭いじゃないか」 「ッ…………!」 (なっ……ば、ばれてたっ……!?)  予想外の言葉に、驚いた隼人が顔を上げた。 「ふふ、いろいろと聞きたい気持ちはわかるよ。私も君にきちんと説明しなければならないと思っているし……ここでは人目が多いから、放課後、学園長室で話すことにしよう。……もちろん、二人きりで、ね」  二人きり、という言葉に隼人の身が総毛立った。  昨日の昼までは何の疑問も持たず話していたが、男を、ましてや司を抱いているところを見てしまった今はもう、神嶽のテリトリーに足を踏み入れるなど、何をされるかわからない。 「ぁ、あ……でも……」  躊躇する隼人の耳元に、神嶽は緩く笑いながら顔を寄せた。 「わかったなら、返事は『はい』だ」  神嶽の言葉には、逆らえない何かがある。 「…………は……は、い」  特に隼人のように流されるままに生きているような人間には、その重圧に耐えられるはずもなかった。

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