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如月司編12-2 ※神嶽×隼人

「し、失礼します……」  ノックの後に震える声で言ってから、隼人は神嶽の命令通り、一人きりでやって来た。  ちなみに、今日は司は呼び出していなかった。  司のことだから律儀に犯されに来るとも限らないので、送迎の車に乗車させ、クラブへと向かわせている。司は司で、好色な会員達への奉仕に忙しくなることだろう。  神嶽は落ち着かない様子の隼人を向かいのソファーに促した。隼人の目はひっきりなしに泳ぎ、不安を隠せていない。 「……さて、隼人くん。いいや、隼人」  神嶽は唐突に、優しい学園長から冷酷な支配人の人格へと移行した。  穏やかだった声音は低く、日々温かく生徒を見守っていた眼鏡の奥の瞳は、突き刺すように鋭いものとなる。 「途中で帰ると思っていたが、最後までたっぷりと楽しんでいたな。どうだ、幼なじみが男に犯される様を見たご感想は」 「あ、あは……はは……学園長先生、何なんすか、ちょっと……キャラ、変わりすぎっすよ……。そ、そりゃあ、びっくりは、しましたけど……。あの……司とは、そういう……関係なんですか? い、意外っすね……はははは」  神嶽の態度の豹変に、隼人は激しく狼狽していた。あまりにも現実味のしない状況に、不自然な笑いさえこみ上げる。  だが、神嶽の何の感情も映さない瞳が、あれがただの恋人同士の戯れなどではないのだと物語っているようで、隼人の乾いた笑いは徐々にフェードアウトしていった。  何かがおかしい。  学園内で見知った人間が性行為をしていたというだけじゃない、今の神嶽から感じられるのは、そんなものよりももっと、深い闇だ。  隼人の背にゾッと震えが走った。 「俺は感想を聞いている」 「か……感想、って……い、いったい何のつもりなんですかっ……! そんなのっ……気持ち悪かったに決まってるっ!」  隼人は思わず机を叩き、声を荒げた。  同性同士の行為を知識として知ってはいたが、異性愛者の自分には関係のないことで、ましてや実際に目にすることはないと思いながら生きてきた人間だ。そう感じても仕方がない。  元はと言えば司だって好き好んでやっていた訳ではないのだが、それを隼人が知る術もないのだ。 「そうか。なら逃げるなり、声を掛けることもできたはずだがな」 「そ、それはっ……!」  隼人は途端に言葉に詰まって口を噤んでしまう。神嶽の言う通りだ。  例え合意の上であったとしても、神聖な学園内で、教師と生徒が淫行に耽るなど、許されるはずがない。  二人の関係が公になる前に断ち切る勧告をするにせよ、広い心で黙っていてやるにせよ、何らかのアクションはとるべきだった。  隼人はここに来て、何もせずにいた己の野次馬根性を呪った。 「……その……黙って見てたのは……あ、謝ります……。だってまさか、あの司が……学園内で、あんなことしてるだなんて思わなくて……。べ、別に学園長先生と司がホモだってのも、学園長室であんなことしてたなんてのも、誰にも言いませんって……!」 「当然だ。お前は今日、この部屋で起こる全てのことを口外できなくなる」 「なっ…………」 「本題に入ろう」  神嶽は懐から小型のレコーダーを取り出して隼人の目の前に置いた。  隼人が怪訝に見つめる中、ボタンを操作して再生し始める。 「え……? こ、こんなの……いつの間に……」  機械から聴こえてきた声に、隼人の顔が蒼白になった。  そこに収録されていたのは、隼人が日頃から友人達と話していた司への不平不満の数々。  ほとんどが、本気ではない。彼にとって自らがどんな発言をしていたか覚えてすらもいなかった、些細な冗談だ。 『あんな奴……居なくなっちまえばいいのに……』  そこにとどめとばかりに、隼人が過去神嶽の前でうっかり漏らした本音。  信頼していた教師に日頃の言動を監視されていたと知った隼人はガタガタと震えだす。 「お前は司が居なくなればいいと言ったな」 「そ、そんなの本気じゃ……! ま、まさかっ……学園長……司にああいうことしてたのは、オレのせいだって言いたいんですか」 「そうだ」  神嶽は隼人の前では、司に対するものとも違う横暴な支配者を演じることにした。  わざとテーブルを蹴って縮こまる隼人を威嚇する。 「俺はな、理事長に借りがあるんだよ。だからその息子のお前を少しでも優位に立たせてやる為に、障害となる司を手篭めにした。だが……俺が手回しをしているとも知らないで抜け抜けと生きるクソガキを見ていたら、気が変わってな」  神嶽の証言だけでなく、この録音データを第三者が聞けば、司の凌辱は隼人が仕向けたものだと繋がりかねない。  事実、いま司が転げ落ちて得をするのはまず真っ先に隼人である。  人並みに家族を愛し、人並みに努力し、しかし気に入らないことがあれば、人並みに誰かに嫉妬し、蹴落とそうともする隼人。そんな人間ばかりでこの世は形成されている。  彼は家柄こそ人とは違ったが、内面は五万といる普通の少年の一人に過ぎなかった。  しかし、隼人の場合はそれでいい。同じような境遇の司と共に堕とすことで個々の違いを会員達に知らしめ、楽しませることができるだろう。 「そ、それじゃあ……あぁ……司が、成績落としたのも……最近元気がないのも……学園長が無理やりっ……」 「ああ、全て俺が仕組んだものだ。お前もこれから、司のようにチンポが無くては生きていけない性処理奴隷となるんだ」  神嶽はうそぶいて、ネクタイを緩ませながら隼人に迫っていく。

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