聞き耳を立てている司にわざと知らせるように、先端付近まで抜いては一気に奥深くまで打ち付ける。 「んぐぐぅうううぅ！　ぐげっ、んんっ、ふひいぃっ……」 　隼人は手のひらで口元を覆い、くぐもった悲鳴を漏らす。 　これでは隼人が神嶽と司の情事を目撃してしまった日と真逆の立場だ。 　しかし、あろうことか幼なじみにばれてしまうかもしれないという背徳的な状況もまた、隼人にとっては興奮を高める材料にしかならなかった。 「あぁっ、駄目ですってばぁ……！　そっ、そんなに激しく動かれたらっ……声、我慢できないっ……司にばれるぅっ……。くふぅっうぐぅ……！」 （…………西、條？） 　神嶽の餌食になっているのが隼人であると勘付いた司は、わなわなと身を震わせる。 （どうして西條までが……！？　何故！？　いや、いつからなんだっ……！？） 　神嶽が司にとって何らかの不利益な行動を起こしているであろうことは、勘の良い司は気付いていた。 　しかしまさか、他の生徒にまで手を出すという最も恐れていた事態が現実のものとなると、混乱の極みに呑まれてしまった。だが、 「ふひぃっ！　がっ、学園長ぉ……気持ちいいっ！　もっとしてぇ……思いっきりチンポぶち込んでくださいぃっ……。あふんっ、それ、ほんとっ……すごい……」 　隼人のあられもない嬌声が司の意識を無理やりに引き戻す。 　肉体は堕ちてもなお、心だけは明け渡してはならないと強く自尊心を保とうとしていた司であったのに、隼人が既にここまで神嶽に陶酔しまっていたとは、耳を疑っても仕方がない。 「はひいいぃ……っ！　もうイッちゃいまふぅ！　ケツマンコでイクぅううううっ！！」 　やがて聞こえてきた無様な絶頂宣言に、顔を青ざめさせた司は息を呑んで後方へよろめいた。 　けれども、逃げる真似はしなかった。 　己だけでなく、幼なじみまで毒牙にかけた男を、今度こそ問い詰めてやろうと猛烈な感情が噴き上がった。 　司は曲がり角に潜んで行為の終わった隼人が学園長室から出てくるのを待ち構え、彼と入れ替わりに神嶽の元へとやって来た。 　ほどなくして、昼休みの終了を知らせるチャイムが鳴った。 「授業はもう始まってしまうが、出席しなくていいのか」 「うるさい……。そんなものより……もっと大事なことだ」 　先ほどまで隼人をよがり狂わせていたのが嘘のように淡々と学園長としての業務を遂行する神嶽に対し、司は鬼のような形相で対峙している。 　以前の彼ならば授業を放ってでも神嶽を選ぶとは、まずありえない行動だ。 　司が感情のままにデスクに両手を叩きつけると、神嶽はようやく顔を上げた。 　「隼人の件か」と何の問題もなさそうに言われ、司はやはり神嶽には全てお見通しなのだと薄ら寒く、そして怒りでブルブルと震えながらも頷いた。 「お前も聞こえていたなら知っているだろう。隼人は既に肉奴隷と化している」 「いったい、いつから……」 「それはお前には関係のないことだ」 　神嶽がそう言う限りは、もう何を言っても取り合ってはもらえないだろう。 　しかし、司が気掛かりであったのは、それ以上に自身の処遇であった。 「…………私を捨てるのか」 「どうだろうな」 「勝手すぎる……」 　下唇を噛んで俯く司は必死に堪えてはいるが、目尻には涙が浮かんでいる。 「……お前は良いな。そんな風に誰の意見も関係なしに我が道を歩むことができて。それに比べて、私は……」 　ふいに司の言葉が詰まる。 「私はっ……！　どこに居ても落ち着けなくなって！　誰のことも信じられなくなって！　もうどうしていいかわからないのに……！　いつまで経ってもお前の思い通りにしかならないなんて、そんなのはっ……あんまりじゃないか……！」 （ああっ……こんな風に醜く当たり散らすなんて、私じゃない……。なのに……この男の前では、どうしても感情を抑えきれなくなってしまう……何故なんだ……） 　己の弱い部分を露わにしてしまうことは未だ慣れなかった。 　けれど、神嶽が相手であると、どうしてもその壁は脆くなっていった。 　それが何度も肌を重ね合わせてきたからかどうかはわからない。 　言われたくないコンプレックスばかりを抉ってくるからかもしれない。 　それでも、クールな司にとって誰か一人の人間にここまで執着したのは初めてだった。 　あまりの理不尽を強いてくるこの男の違う一面を、どうにかして知りたいとさえ思っていた。 　言うだけ言って顔を伏せてしまった司に、神嶽は一つ息を吐き、例の録音データを司にも聞かせてやった。 　西條親子は初めからクラブと繋がっていて、神嶽の学園での凌辱行為を黙認していた主謀者である。そんな嘘と真実を交えた情報も付け加えたのだった。 「隼人は余計な真似をしたのでな、単なる口封じだ。俺が隼人を調教している間、お前には少しクラブでやるべきことを増やしてやっただけといったところだ」 「……どうしてそれを、今さら教えてくれる気になったんだ？」 「お前がずいぶん従順な奴隷になってきたから……とでも言っておこうか」 「…………ふんっ」 （やはり初めから理事長もグルか……しかし……まさか、西條もとはな） 　一度はかわされていた秘密を肯定された司は、怒りもせず呆れもせず、納得したように鼻を鳴らした。 「結局、私はお前の手のひらの上で転がされることしかできない……。本当に舐められたものだな」 　しかしながら、ひとまずは見捨てられていた訳ではないと、何故だか安堵していた。 「……それで。私と西條をどうする気なんだ。二人仲良くお前の言いなりになれとでも？」 「いいや。一つ賭けをしないか、司」 「賭け……だと？」 「隼人と奴隷としての技術を競い合うんだ。どんな具合になってきたか、改めて俺が品評してやる。使えない奴隷などいらない。負けた方は即座にクラブに放り込んでお終いだ」 「つまりそれは……。どちらか一方が、必ず犠牲になる……ということか」 「そうだ。隼人を助けてお前が堕ちるか。隼人を邪魔してでも自らが助かるか。どちらを選ぶかはお前次第だ」 「…………くだらない」 　司は嘲るような小さい笑みを浮かべた。 （相変わらず何てことを考えるんだ、こいつは……。私がどう転ぶか試したいのだろうが……でも……そんなこと、私にだってわからないのに……） 　彼自身が揺らいでいるからこそ、今回の勝負は意味がある。 　さすがの司でも命は惜しいのか。それでもやはり、他人を放ってはおけないのか。 　司は、最後の試練を乗り越える必要があった。