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如月司編15-1 神嶽×隼人、ピアッシング

 司と隼人は、かの調教部屋へと連れて来られていた。司はすっかり慣れてしまったせいもあり、大人しく目隠しをされて後部座席に乗って来たが、隼人は薬を嗅がされて気絶させられ、トランクに入れられて物のように運ばれるという拉致同然の扱いだった。  そんな隼人は未だ寝たままで、まさか服を全て脱がされ、内診台のような拘束器具に乗せられて四肢を革ベルトで固定されていようとは、欠片も想像していない。  狼狽していたのは司だった。敗者となった隼人の罰に立ち会い、その全てを見ていろ、というのが今回の神嶽の命令だったが、神嶽が本当に隼人までをもクラブに連れて来たこと、そしてこの場に鷲尾もいることにたまらない胸騒ぎを覚えた。  だが、今の司はただただ黙って俯いているしかない。余計な真似ができないように、前に回した両手首に枷を嵌められている以上は、これから目の前で繰り広げられるであろう拷問も傍で見守ることしかできないのだ。 (何をするつもりなんだ、学園長……? 殺しはしないとは言ったが……こ、ここに来ては……西條は……何らかの拷問を受けることに……)  あの拘束器具を見ていると、司も初めてクラブへ連れて来られた際の悪夢の記憶が鮮明に蘇る。何が起こるにせよ、それが卑劣な犯罪であることは確かだ。幼なじみの哀れな姿を見せつけられるのかと思っただけで、ゾッと鳥肌が立った。  それに、神嶽の傍らに準備されているステンレスのワゴン。そこに乗せられていたものを見た司が真っ先に息を呑んだのは、大小様々な形をした針。まるでこれから手術か何かをするかのようだ。  神嶽ならそういったこともし兼ねないという危険性を感じ、司の顔がみるみるうちに蒼白となっていった。  神嶽に頬を軽く平手で叩かれてから、隼人がようやく目を覚ました。まだ意識がはっきりとしないが、ゆっくりと視線が動き、自身の身に何が起こったのか思い出そうとする。 「……なっ……なんだよ、これぇっ……!?」  意識を失う直前の記憶もさることながら、真っ裸で四肢をガッチリと拘束されていること、見覚えのない怪しげな場所に放り込まれていることが追い付いてくるにつれ、当然とも言えるが隼人はパニック状態に陥った。 「どっ、どうしてこんなことにぃっ!? ここどこなんだよぉっ! あぁっ、学園長……な、な、何するんですか……まさか、こ、殺さないですよね……ひぃっ、ヒイィッ……!」  神嶽がまだ何も言わぬ内から、隼人は唯一自由な頭を振りたくって恐怖した。何をされるわからない不安で涙が滲んでくる。 「今からお前には、奴隷としての証をその身に刻んでやる」  冷徹に言いながら、神嶽は隼人の健康的な色の肌を撫でる。その声音とは真逆とも言えるくすぐったさに、隼人は思わず身を固くした。 「奴隷の……証って……な、なに、するんですか……っ」 「ピアッシングだ。緊張せずとも、すぐ終わるさ」  感情の読めない顔を崩さず、神嶽は隼人の耳たぶに触れる。そこには、彼が普段からお洒落でつけている樹脂製のノンホールピアスがあった。染めている髪に合うよう、そうして学生らしく浮ついたこともしたかったのだが、実際にピアスホールを開ける勇気まではなかったが故の、せめてもの背伸び。いつか開けたいとは思うものの、結局これまで保留してしまっていたのである。  てっきり酷い暴力を振るわれるのだろうかと思っていた隼人は、そんなことでいいのかといったような呆けた顔になった。もっとも、ただの暴力の方が何倍もマシであるなどとは、隼人はまだ気付かない。 「え……あ……ぴ、ピアス……?」 「そうだ。したかっただろう」 「それは……。ああっ、でもっ!」  ノンホールピアスを外すと、神嶽は医療用のゴム手袋を装着し、消毒液の染み込んだコットンで拭いてやる。  そうして、用意してあった専用の針を手にとって軟膏を塗った。ピアスを開けると言ってもせいぜいピアッサーや、医療機関でやるものと思っていたため、医師免許などとても持っていなさそうな神嶽に、隼人は固唾を呑む。  既に神嶽の頭の中ではどのような位置に、どのくらいの大きさの穴を開けるか決まっているようで、マーキングをする必要もない。 「痛みは一瞬だ」  神嶽の手際は良く、隼人がなにか言う前にはもう、軽く耳たぶを引っ張って皮膚を刺し抜いていた。  貫通の瞬間、隼人はビクッと身体を震わせたが、思っていたよりもその衝撃は小さかったようだ。すぐにもう片方の耳たぶにも同じことをしてやり、ごくごく小さなその穴にはファーストピアスがはめ込まれた。  隼人がしていたノンホールのものとよく似たスタッドピアスで、太陽光が反射した海面のような美しい色をしたサファイアが輝いている。 「よし。よく似合っているぞ、隼人」 「っは……ぁ……あ、ありがとう、ございます……?」  もう終わったと思いたかったのだろう。ホッと息を吐き出し、隼人は小さく笑った。だが、神嶽の手が乳首に及び、背筋が凍った。

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