239 / 249
如月司編17-3 ※和姦、甘々
いつものように、無理やりに絶頂させられるやり方とは大きく違ったが、司はこれはこれで新鮮だった。
むしろ、色恋への興味が薄い司が自分も将来いつかは、とぼんやりと考えていた子作り──すなわち、“愛を確かめ合う行為”としての情事をしている気分になって、かあっと体温が高まっていくのがわかった。
「お前も……こ、こんなにっ……人を……優しく、抱けるのだな……」
他人の意思を無視したことばかり強要してきた男が、こんなにも司を満足させるセックスができるとは思いもしていなかった。
自分以外には誰も知らない彼の一面を知れたような気がして、司は何故だか嬉しくなった。
「っくはぁ……あ、ぁあ……修、介……」
司は思わず、神嶽の下の名前を呼んでいた。
「ふぅっ……はぁ……そ、それ、そこ……きもち、いい……っ」
緩く腰を動かし始めた神嶽に、司はくしゃっと顔を歪め、大粒の汗を流して襲いくる強烈な快感を受け止める。
神嶽の抱き方は相変わらず的確だった。
性的なことを毛嫌いし、知識も疎かった司を、いつでもいとも簡単にめくるめく官能の世界へと誘った。
執拗な凌辱をその身に深く刻まれてしまった今は、堪え切れるはずもなかった。
ふうふうと悩ましい喘ぎを噴きこぼしながら、司は全身全霊でその倒錯した行為に没頭した。
神嶽が司の赤く色づいた半開きの唇を奪っていく。軽くついばんでから顔を離そうとすると、司はああっと落胆の吐息を漏らして追いかけた。
「キスが気に入ったか」
「んぅ……う、うぅんっ……気持ちいいっ……。はぁ……好きだ……」
司は熱に浮かされたように、何度も口付けを求めた。
口腔内に舌が侵入してきても、素直に受け入れて絡め合った。溢れた唾液は全てどちらからともなく飲み干し、味わっていった。
「好き……。好き、好き、好きぃっ……」
それほどにキスがたまらないのか、もしくは。
この安らぎの正体は、生まれて初めての感情であり、司には理解が難しかった。
「えふっ……ぅ……ぐすっ……ひぐ、ぐぅ……」
やがて、司は子供のように泣きだした。
なにが悲しい訳でもない。嫌だからでもない。神嶽と結合する司はただただ、言いようのない幸福感に包まれた。
飢えと渇きでカラカラになっていた彼の心は、奇しくも己の尊厳を徹底的に破壊した凌辱魔によって癒され、いっぱいに満たされていた。
「修介……。私っ……寂しかった……。ずっとこうして欲しかった……。こんなにも弱い私を見てくれて……呆れもせずに認めてくれたお前のような人間に……私の全てを捧げたかった……」
神嶽は司の頭を己が胸に引き寄せて、良い子だ、と言わんばかりに片手でぽんぽんと撫でた。そうして、
「辛い思いをさせたな。悪かったよ、司」
ぽつりと謝罪の言葉を口にした。
司は物思いに耽るように目を細め、神嶽の背に回した手でシャツ越しに爪を立てた。
堕落した心身を支配することとなった男に、まるで己の傷痕を残そうとしているかのようだった。
「私の人生をめちゃくちゃにしたお前なんて絶対に許してなんかやらない」
「ああ」
「だから……これからは、ずっと……傍にいて……新しい人生を歩む私を、見てくれ……」
それには、神嶽は答えなかった。その代わり、ぐいと腰を突き上げて司の前立腺刺激を強めた。
それが言葉足らずな彼なりの返答だろうと、勘違いした司は嬉し涙を流した。
(ぁ……はふ、うぅんっ、そこ、本当に気持ちいいっ……。どうして、こんなにっ……私のことを、わかってくれるんだ……? ああ……もしかしたら、本当にわかるのかもしれないな……そう……きっとそうなんだ……)
無論そのような非現実的な能力を信じた訳ではない。
けれど、司は勝手にそう思い込むことにした。事実、神嶽は司の揺れる心を見通してきた。今だって、よがり狂う司に思案するような瞳を向けている。
孤高の司を、どこまでもその冷徹な眼光で見守り、導いてくれる男。それだけで十分だった。
ともだちにシェアしよう!